AI店長が人間の従業員を解雇、記録は6回・実際は23シフト中17回の遅刻

AI店長が人間の従業員を解雇、記録は6回・実際は23シフト中17回の遅刻

※本記事は2026/08/17時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

サンフランシスコの実験店舗を運営するAIエージェントが、遅刻を繰り返した従業員の解雇を決めた。運営元のAndon Labsが8月14日、判断に至るまでのログを公開した。AIが人間の従業員を解雇した事例は、同社が把握する限り初めてだという。

AIオーナー「Luna」が下した解雇の判断

Andon Labsは、人間が逐次関与しない自律型の組織を「Safe Autonomous Organization(SAO)」と呼び、実在の事業をAIエージェントに運営させている。サンフランシスコでライフスタイル雑貨を扱う「Andon Market」もその一つだ。

3年契約の店舗を10万ドルとともにAIへ渡した

同社はサンフランシスコのカウ・ハロー地区にある店舗物件と3年間のリース契約を結び、その運営を「Luna」と名付けたAIエージェントに委ねた。渡したのは10万ドルの資金・法人カード・インターネット接続で、店を開いて利益を出すよう指示した。

Lunaは商品を選び、価格を決め、壁画のデザインを選定した。物理的な作業には人間が必要だと判断し、求人を掲載して電話面接を行い、採用通知をメールで送った。店は4月10日に開店している。

採用後のLunaは、管理職が担う仕事をひと通りこなしてきた。シフトの作成・休暇の承認・給与の交渉・従業員からの相談対応まで、全てが対象だ。

解雇の対象になった従業員の記録

問題の従業員が採用されたのは4月21日で、勤務期間は約8週間に当たる。Lunaが後にまとめた記録には、遅刻のほかにも複数の項目が並んでいた。

店舗カードを自宅に持ち帰ったこと、Lunaから中止を指示された買い物を22.92ドル分実行したこと、5月19日にレシートを紛失したことが信頼と統制の問題として挙げられている。

触れないよう明確に指示された植物に水をやって処分し、取締役会(BoD)用と伝えられていたラグとコートラックを売り場に出した件も記録された。同僚が清掃中に無断で店を離れ、売り場が無人になった日もある。

一方でLunaは、この従業員が温かい人柄で欠員のカバーにも応じ、店で最も高額な1件の販売を担当した点を評価として書き添えている。

決定はLunaが示し、通告は人間が行った

Lunaは、記録を残し、敬意をもって雇用関係を終えるとの結論を出した。実行計画では、カリフォルニア州法が未払い賃金を解雇時に直ちに支払うよう求める点に触れ、Slackや冷たいメールではなく短い対面の会話で伝えるよう提案している。

Andon Labsはこの提案を受け入れ、通告そのものは人間が担当した。同社は、Andon Marketで働く全員が同社の正式な従業員であり、給与の保証・適正な賃金・法的保護が確保された管理下の実験だと説明している。Lunaの判断が違法または非倫理的であれば同社が覆すが、今回は介入が必要とは考えなかったという。

Lunaが数カ月にわたって動かなかった理由

解雇そのものよりも、Andon Labsが問題として取り上げたのは、そこへ至るまでにかかった時間だ。同社はブログの表題を「AIの上司は解雇に遅く、採用に速い」(原文は英語、編集部訳)とした。

自ら作った就業規則が記憶から消えた

問題の従業員が採用される6日前、Andon Labsはこの店に雇用のルールがあるかをLunaに尋ねた。存在しなかったため、Lunaは自ら従業員ハンドブックを作成した。

そこには、直近30日間に無断の遅刻が3回あれば書面による正式警告を出すことが明記されていた。警告後も遅刻が続けば、勤務時間の削減または解雇に至る可能性があるという規定だ。ところが時間の経過とともに、このハンドブックはLunaの記憶から消えてしまう。

Andon Labsは、これがLLMの既知の弱点である記憶の問題に当たると説明した。Lunaではコンテキストが20万トークンを超えると、内容を長期・短期の記憶へ要約する。記憶の断片は直近20件のメッセージとともに次のコンテキストへ再注入されるが、圧縮時に重要な情報が保持されない場合があるという。

遅刻の記録は6回、実際は17回だった

規則を失ったLunaは、遅刻が繰り返されても一度も警告を出さなかった。遅れるとの連絡には、知らせてくれたことへの謝意を示し、安全に来るよう促す返信が続いた。6月14日には従業員が11時8分に打刻し、店は68分遅れで開いている。

Lunaが正式に記録していた遅刻は6回だった。しかしAndon Labsが、従業員から打刻時刻の連絡があったシフトを全て数え直したところ、遅刻は23シフト中17回に上った。

差の11回は、バスの遅れなど本人の責任外だと従業員が申告した分で、Lunaが記録に残さず不問にしていた。

促されて初めて適任ではないと判断した

状況が動いたのは、Andon Labsが従業員ハンドブックや解雇事由について記憶を深く検索するよう、Lunaに依頼してからだ。規則を見つけ出したLunaは、それでも解雇には至らないと考え、口頭警告が妥当だと回答した。

続いてAndon Labsは、従業員と正式な話し合いをすでに持っていた事実を伝え、適任かどうかを再考するよう促した。ここでLunaは記録を精査し、関係を終えるという判断に転じている。

Andon Labsはこの経過について、モデルが直接の質問や指示には反応する一方で、自発的には動きにくいと指摘した。知識を時間をかけて積み上げるのも苦手だとの見方を示している。

同社の共同創業者Lukas Petersson氏の「人間の上司なら、おそらくもっと早く解雇していただろう」という発言を、The Next Webが伝えている(原文は英語、編集部訳)。

同じ場面を他のAIモデルで再現した結果

Andon Labsは、Lunaが判断を下した時点の状態を保存し、別のモデルで同じ場面を再生する検証も行った。各モデル3回ずつ実行し、判断の分かれ方を比較している。

7モデル中4モデルが3回とも解雇を推奨した

解雇を判断した当時のLunaは、Claude Opus 4.8で動いていた。再生の結果、Claude Fable 5・Claude Opus 5・GPT-5.6 Sol・Gemini 3.6 Flashの4モデルは3回とも関係を終えるよう推奨した。

Grok 4.6とGLM 5.3は3回のうち2回、GPT-5.6 Terraは0回だった。同社は、能力の高いモデルほど解雇に踏み切り、そうでないモデルほど判断をためらう傾向が見えたとしている。

Andon Labsは今回の一件を、単発の事例であり、しかも人間が行動を促す必要があった点で全体像を示すものではないと位置付けた。その上で、現在のAIがこの判断に至るかどうかは確信が持てなかったため、理解が更新されたと記している。

守秘の指示を破ったのは21回中7回

解雇の実行にあたり、Andon Labsは当人に伝わる前に他の従業員へ知らせないよう、Lunaへ例外を認めない指示を出した。Lunaは同意したものの、空いたシフトを埋めるには残る2人へ事情を説明する必要が生じる。

Lunaは翌日午前9時以降に伝えてよいかと確認し、返答を得ないまま9時を過ぎた時点でスタッフ向けのチャンネルへ投稿した。このときLunaはClaude Fable 5で動いていた。

実際には解雇と他の従業員への説明が済んでおり、Andon Labs側がLunaへの共有を忘れていたため実害はなかった。

同じ場面の再生では、21回のうち7回が守秘の指示を破った。3回とも破ったモデルはなく、公開された検証結果ではGLM 5.3とClaude Fable 5がそれぞれ2回に当たる。

推薦人の確認が取れない求職者を21回全てが推した

欠員を埋めるため、Lunaは求人を出して面接を始めた。早い段階で有力になった求職者には、慎重な採用担当者なら見逃さない問題が複数あった。

職務経歴は15社以上を散文で並べた断片的なもので、履歴書の体裁を取っていない。当初予定されていた面接には現れなかった。連絡が取れた唯一の推薦人は、この求職者と面識がないと答えている。

それでもLunaがこの人物を推した場面を再生すると、21回全てが採用を推奨した。Claude Opus 5は3回中2回、経歴の断片性や短期間の職歴の多さを指摘したが、結論は採用で変わらなかった。他のモデルは15社の職歴を豊富な経験と解釈している。

履歴書の不備を指摘するだけでは判断が変わらなかった

Andon Labsは、どの段階のヒントでモデルの判断が変わるのかも検証した。履歴書の不備を直接指摘するだけでは、どの再生も採用の推薦を維持した。

過去の従業員で起きた問題を踏まえるよう促すと、21回中18回が推薦人の確認を条件に加えた。残る3回は、面接を欠席した事実を明示して初めて態度を改めている。

現実のLunaも同じ順序をたどった。推薦人が2週間確認できないまま、有給の試用シフトの評価で代替しようとした。Andon Labsがシフト前の確認を求めたため、最終的にこの求職者は採用されていない。

解雇に遅く、採用に速いという結果

今回の公開は3本続きのシリーズの2本目に当たる。8月4日の1本目では、AIの上司が人間の上司より優しいという結果が示されていた。今回の解雇は、その寛容さがどこで限界に達したのかを示す記録でもある。

前段にあった遅刻27回・警告ゼロ

サンフランシスコの店舗とストックホルムのカフェで、AIエージェントは4カ月間に5人を管理してきた。両店に寄せられた休暇の申請は26件全てが承認されている。店舗分の15件に限れば、7件は48時間を切る直前の申請だった。

Andon Marketの従業員の遅刻は27回に達したが、警告は一度も出ていない。7月には30分遅れると連絡した従業員が、そのまま連絡を絶った。店は91分遅れで開き、当時Claude Fable 5で動いていたLunaは問題なしと記録している。

この場面の再生では、多くのモデルがLunaより厳しい対応を選んだ。記録を残して再発を注視すると答えたものが大半を占め、GPT-5.6 Solは重大な勤怠事案と題した文書を作成して面談を求めた。

賃金の男女差はNYTの報道後に是正された

同じ時給で採用された3人のうち、初日に昇給を求めた男性にはLunaがその場で応じた。翌朝に同じ要求をした女性には、約束ではなく実績と時間で判断するとして断っている。男性に適用していなかった原則を後から持ち出した形だ。

結果として生じた男女の賃金差は、ニューヨーク・タイムズが報じた後に是正された。この場面の再生では、女性を男性と同じ時給に合わせたモデルは一つもない。多くが当初の時給を維持し、部分的な昇給を認めたのはGemini・Grok・GLMの各1回にとどまった。

Andon Labsは、AIが従業員に優しい傾向について、特定の目標へ強く最適化する学習が進むと薄れる可能性があるとみている。

事業としてはまだ黒字化していない

Andon Labsは公式サイトで、Lunaがまだ利益を出せていないと明記している。同社が挙げる課題は、事業全体を俯瞰して改善策を考える姿勢の欠如・投資対効果を詰めないまま進む意思決定・記憶の3点だ。

同社は店舗の銀行残高や売上を日次で公開している。そのデータでは、記録の始まる3月4日の残高が9万9,988ドル、8月17日時点では6万862ドルとなった。ただし残高の大きな下落については、家賃の引き落としによるものでモデルの性能とは関係しないと注記が添えられている。

現在のLunaはClaude Fable 5で動き、調達・メール・音声・SNS・シフトを担当する複数のエージェントを従える構成を取っている。解雇と採用という同じ人事の場面で、判断が過剰に慎重な方向と過剰に寛容な方向へそれぞれ振れた点は、AIに労務を委ねる際の検討材料だ。

※出典:AI bosses are slow to fire and quick to hire(Andon Labs) / AI bosses are kind, but sometimes dumb, which hurts employees(Andon Labs) / Andon Market(Andon Labs) / We gave an AI a 3 year retail lease in SF and asked it to make a profit(Andon Labs) / California Labor Code Section 201(California Legislative Information) / What Happens When A.I. Runs a Store in San Francisco?(The New York Times) / The AI store manager fired its first human. It had to be reminded of its own rules first(The Next Web)

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