米国企業で中国製AIモデル採用が拡大 OpenRouterでは週間シェア最大46%
※本記事は2026/07/14時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
米国の開発者や企業で、DeepSeek、Alibaba(阿里巴巴)のQwenなど、中国企業が開発したAIモデルの採用が広がっている。Rest of Worldは2026年6月17日、Financial Timesは同18日、CNBCは7月7日に、コストを抑えるため中国製モデルを利用する米国企業の動きを相次いで報じた。
採用拡大を示す先行指標の一つが、複数モデルへ接続できるAPIサービス「OpenRouter」のデータである。CNBCによると、OpenRouter経由で米国企業が消費したトークンのうち、中国製モデルが占める週間比率は、2026年2月8日以降30%を上回り、最大46%に達した。
ただし、これは米国企業が利用する全AIモデルの市場シェアではない。OpenRouterを利用する企業に限ったトークン比率である。複数の企業事例と合わせると採用拡大の兆候は明確だが、米国企業全体が一斉に中国製へ移行しているとまでは言えない。
AIエージェントの普及で、トークン費用が経営課題に
定額制からの「業界一斉移行」ではない
企業が低価格モデルを検討する背景の一つに、AIエージェントによるトークン使用量の増加がある。チャットボットが一度の質問へ回答するのに対し、AIエージェントは検索、計画、コード生成、検証などを複数回実行する。このため、一つの業務を完了するまでのトークン量が大きくなりやすい。
主要AI企業が2026年に定額制からトークン従量課金へ一斉移行したわけではない。OpenAIやAnthropicのAPIには以前からトークン単位の料金がある。一方、エージェント型のコーディング支援が広がり、固定料金では費用を吸収しにくくなったことから、一部サービスが従量課金要素や利用上限を強める動きが報じられている。
Uberでは、2026年分のAIコーディングツール予算を4月までに使い切ったと報じられた。Walmartも、需要の増加を受け、社内AIエージェント「Code Puppy」で従業員ごとのトークン上限を設けたという。いずれも企業の全AI予算・全AIツールを対象にした話ではないが、生成AIの利用量管理が財務上の課題になっていることを示す事例である。
価格差は大きいが、単一の倍率では表せない
Rest of Worldが取材した米国の開発者は、Claudeを使った約1時間のコーディングに約10ドルかかったのに対し、DeepSeekでは50セント未満だったと説明した。これは一人の利用例であり、同一条件の比較試験ではない。
CNBCの報道では、OpenRouterのデータ担当者が、中国製オープンモデルは米国の主要モデルより60~90%安い場合があると説明している。
ただし、実際の費用は、利用するモデル、入力・出力トークンの比率、キャッシュ、ホスティング先、同じ業務を完了するまでに必要な呼び出し回数で変わる。「中国製は常に米国製の9分の1」と一般化できる比較データは確認できなかった。
Lindy・DoorDash・Airbnbはどう使っているのか
Lindy:顧客向けトラフィックをDeepSeek V4へ切り替え
AIエージェント開発企業Lindyの創業者Flo Crivello氏は2026年6月、顧客向けの本番トラフィックをAnthropicのモデルからDeepSeek V4へ切り替えたと公表した。
Crivello氏は、切り替えによって数百万ドルを削減し、複数の主要用途では性能も改善したと説明している。また、日常的な処理に常に最高性能のモデルを使う必要はないとの文脈で、「メールを書くのに神は必要ない(You don’t need God to write your email)」と述べた。
一方、これはLindyの顧客向けトラフィックについての説明である。社内利用や複雑な処理のフォールバックを含め、Anthropic製品を完全に廃止したとまでは確認できない。LindyはDeepSeekを中国のAPIへ直接接続するのではなく、米国のプロバイダー経由で利用しているとも説明している。
DoorDash:AIコードレビューでモデルを役割分担
DoorDashは、AIコードレビューの評価基盤「DashBench」で複数のモデル構成を比較した。同社の公式記事によると、Moonshot AIの「Kimi K2.6」を問題候補を広く探すスカウト役、Anthropicの「Claude Fable 5」を候補を検証するレビュー役にした構成が、105件の評価セットで重み付き再現率とF1の双方で最も高かった。
これはDoorDashのAIコードレビューにおける一つの評価結果であり、同社の業務全般を中国製モデルへ置き換えたことを示すものではない。一方で、単一モデルに全工程を任せず、役割ごとに異なるモデルを組み合わせる具体例ではある。
Airbnb:Qwenを含む13モデルを組み合わせる
Airbnb CEOのBrian Chesky氏は、同社のAIカスタマーサービスがAlibabaのQwenへ大きく依存していると説明し、Qwenを「非常に優れ、高速で安い」と評価した。OpenAIの最新モデルも利用するが、より高速で安価な選択肢があるため、本番環境では広く使っていないとも述べている。
ただし、AirbnbのAIサービスはQwen単独で動いているわけではない。報道では、OpenAI、Google、Qwenなど13のモデルを組み合わせている。Qwenの採用は確認できるが、「AirbnbがOpenAIから全面移行した」と捉えるのは正確ではない。
OpenRouterで最大46%、VercelではDeepSeekが17%
OpenRouterのデータでは、中国製モデルの週間トークン比率は2026年2月8日以降30%超を維持し、最大46%に達した。比較対象となる11%は2025年の暦年平均ではなく、CNBCの記事時点における直近12か月の平均である。2025年上半期は4.5%だったと報じられている。
Vercelでも、DeepSeekが同社プラットフォームで処理したトークンに占める比率が、2026年5月に1%未満から17%へ上昇した。一方、売上に占める比率は約1%にとどまった。低いトークン単価により、利用量の伸びが売上へ同じ割合で反映されない構造がうかがえる。
これらは実利用に基づく重要なデータだが、どちらも特定のAPI・開発プラットフォーム内の比率である。企業向けAI市場全体や、売上ベースの世界市場シェアとは区別する必要がある。
Qwenは2026年1月に累計10億ダウンロード
Alibabaの香港証券取引所向け開示によると、Qwenファミリーは2026年1月21日時点で、Hugging Faceにおける累計ダウンロード数が10億回を超えた。
ダウンロード数は、同じ利用者による再取得や自動処理も含み得るため、企業の本番利用数や売上を直接示す指標ではない。それでも、Qwenを基盤にした派生モデルが広がり、オープンモデルの開発基盤として存在感を高めていることは確認できる。
米国議会の調査と、中国側の輸出規制協議
米下院はAirbnbとAnysphereを調査
米下院の中国特別委員会と国土安全保障委員会は2026年4月29日、Airbnbと、開発ツールCursorを運営するAnysphereに対する共同調査を発表した。中国製AIモデルの利用が、データセキュリティやサプライチェーンへ与える影響を調べるとしている。
一方、中国製のオープンウェイトモデルを使うことが、直ちに中国企業のサーバーへデータを送ることを意味するわけではない。モデルを自社環境で動かしたり、米国のクラウド事業者を通じて利用したりする選択肢もある。実際にLindyは、米国のプロバイダーを利用していると説明した。
したがって企業が確認すべきなのは、モデルの開発国だけではない。モデルをどこで実行するのか、入力データを誰が保持するのか、ログや学習に使われるのかまで含めた構成である。
中国当局の協議は未決定
Reutersは2026年7月7日、中国当局がAlibaba、ByteDance、Z.aiなどと、最先端AIモデルの海外提供を制限する可能性について協議したと報じた。情報源は協議を知る匿名の関係者で、中国商務省、国家発展改革委員会、各社はReutersの問い合わせに回答していない。
報道によると、規制の対象や方法は協議中で、将来のモデルだけが対象になる可能性もある。実施時期だけでなく、実際に導入されるかどうかも決まっていない。現行のDeepSeekやQwenが直ちに海外で使えなくなると解釈すべきではない。
同記事は、最高人民法院系の刊行物に掲載された法律専門家の会合で、基礎的なオープンソース技術は届出、高度技術は安全審査、最も機微なフロンティアモデルは公開禁止または国内限定とする段階案が提案されたとも報じている。これは法律専門家による提案であり、中国政府が決定した「三層規制」ではない。
AI調達は性能・原価・データ管理・供給継続性で判断する
今回の動きから読み取れるのは、AIモデルの選定基準が性能だけではなくなったことである。業務要件を満たす性能に加え、タスク単位の原価、応答速度、データの保存場所、規制変更、モデルを継続利用できるかが調達条件に入っている。
Lindyの事例は、一部の業務では低価格なモデルへ切り替えられる可能性を示す。DoorDashの事例は、AIコードレビューのような限定された工程で、探索役と検証役に異なるモデルを割り当てる選択肢を示している。ただし、どの業務でも中国製モデルが同等に機能するわけではない。企業ごとの評価データとセキュリティ要件が必要である。
中国製モデルには、価格とオープンウェイトによる運用自由度という利点がある。一方、米国側の規制や、中国側で検討される輸出管理によって、将来の供給条件が変わる可能性もある。
企業に求められるのは、特定の国や一つのモデルへ全面的に賭けることではない。用途ごとの品質基準を定め、複数モデルを比較できる評価環境を作り、必要に応じて切り替えられる構成を持つことである。AIモデルの調達は、IT部門だけの技術選定ではなく、財務、法務、セキュリティを含む経営上のリスク管理へ移りつつある。
※出典:Chinese AI models are gaining ground with U.S. companies as OpenAI, Anthropic costs surge(CNBC) / When Americans choose Chinese AI(Rest of World) / This AI agent startup ditched Anthropic for DeepSeek(The New Stack) / How we learned to trust our AI code reviewer at DoorDash(DoorDash公式) / 米下院委員会によるAirbnb・Anysphere共同調査(Select Committee on the CCP) / Beijing is looking at curbing overseas access to China’s top AI models(Reuters配信) / Alibaba Reports Solid Progress in AI + Cloud(Alibaba Group公式) / Uber Burns Its 2026 AI Budget In Four Months On Claude Code(Forbes) / Walmart Caps Usage of an AI Tool for Employees(SupplyChainBrain)