AI活用が育成を追い越す?Cornerstone調査で従業員の46%が「研修なし」でAIを使用

※本記事は2026/06/28時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

AIの業務利用が広がる一方で、企業側の育成体制が追いついていない実態が、あらためて数値で示された。人材育成プラットフォームを手がけるCornerstoneが2026年5月に公表したAIスキルに関する調査によると、AIツールを使う従業員のうち46%が、勤務先から正式な研修を受けないままAIを使っているという。

前日まで取り上げてきたAI起因の人員削減やエージェントAIをめぐる投資の議論は、いずれも「AIをどう導入し、人員配置をどう変えるか」という経営側の動きであった。今回の調査は、その裏側で進む「既存の従業員がどうAIを身につけているのか」という育成の現実に光を当てるものだといえる。

本ニュースでは、2026年6月下旬時点の論点として、調査が示した活用と育成のギャップ、その背景にある従業員心理、そして労働市場でAIスキルが中心化していく流れを整理する。

調査が示したAI活用と育成のギャップ

調査の出所と方法

今回の数値は、Cornerstoneが2026年5月20日に公表したAIスキル調査によるものである。調査は調査会社Censuswideが実施し、米国と英国の就業者2,000人(米国1,000人・英国1,000人)を対象としている。AIの利用実態に関する設問は、実際にAIを使う回答者(米国823人・英国734人)に絞って集計された。

一企業による調査であり、対象が米英に限られる点は、結果を読む上で留意が必要だ。とはいえ、AI活用と育成の関係を就業者の声から横断的にとらえた調査として、現場の温度感を知る手がかりになる。

「研修なし」でAIを使う従業員たち

最も目を引くのは、AIを使う従業員の46%が、勤務先の正式な研修を受けていないという数字である。さらに65%は、業務外で自らAIスキルを身につけていると答えた。56%は、社内に明確なスキル向上の道筋がないと感じているという。

ここから浮かぶのは、多くの従業員が会社の支援を待たず、独力でAI活用を進めている構図である。Cornerstoneはこの状態を「場当たり的(winging it)」と表現している。ツールの普及が先行し、体系的な学びの仕組みが後追いになっている様子がうかがえる。

ギャップの背景にある従業員心理

役割は変わるのに、認識が追いつかない

従業員の30%が、AIによって自分の役割が実質的に変化したにもかかわらず、会社から正式な認識や評価を受けていないと答えた。仕事の中身が変わっても、それが組織の評価や役割定義に反映されていない状態である。

これは「シャドーAI」と呼ばれる現象とも重なる。個人の生産性は上がっても、組織としてはその変化を把握しきれていない。誰がどの業務でAIをどう使っているかが見えにくくなれば、評価や育成の設計も難しくなっていく。

経営層の説明への不信

従業員の47%が、AIについて経営層が伝えるメッセージに懐疑的だと答えている。一方で、学ぶ意欲そのものは低くない。52%はAIスキルの習得に前向きだが、自信があると答えたのは21%、前向きな期待を示したのは18%にとどまる。

不安や戸惑い・抵抗感など否定的な感情を抱く回答者も32%いた。意欲はあるが、自信と安心が伴っていない構図だといえる。CornerstoneのHimanshu Palsule最高経営責任者は、従業員はAIを受け入れる準備も意欲もあるが、明確な方向性や十分な研修がないまま進めていると述べている。

労働市場で進むAIスキルの中心化

最も需要の高いスキルとなったAI実装

育成の遅れが問題になる背景には、求められるスキルそのものの急速な変化がある。Cornerstoneが2025年12月に公表した「Skills Economy Report 2026」では、AI実装スキルへの需要が前年比245%増となり、世界で最も需要の高いスキルになったとされる。

この変化は象徴的だ。10年以上にわたり需要の首位にあったコミュニケーションを、AI実装スキルが押し下げた。同レポートは、200か国超・5万種類超のスキルに関する28テラバイト規模の労働市場データ(2023年~2025年)に基づくとされる。

人とAIのスキルが融合する「50対50」

同レポートは、求められるスキルが技術系と人間的スキルでほぼ半々に近づいていると指摘する。AI実装のような技術スキルが伸びる一方で、感情的知性や創造的思考・柔軟性といった人間的スキルの需要も同時に高まっているという。

実際、同レポートでは人間的スキルの伸びも具体的な数値で示されている。感情的知性への需要は前年比95%増、適応力や柔軟性を指すレジリエンスは42%増、創造的思考は18%増とされる。技術スキルだけが突出して伸びているわけではない点に、この調査の特徴がある。AIが定型的な処理を担うほど、人にしかできない判断や対話の価値が相対的に高まるという見方とも整合する。

つまり、AIスキルの中心化は、技術一辺倒への移行を意味するわけではない。AIを扱う力と、人にしかできない判断や協働の力を組み合わせられる人材へと、需要の重心が移りつつあると読める。育成の対象が広がっている点は、企業にとって難度を上げる要因になりうる。

企業と従業員のあいだに生じる論点

シャドーAIと統制の空白

研修を伴わない自己流の利用が広がると、組織としての統制やリスク管理に空白が生まれうる。どのデータを入力してよいか・出力をどう検証するかといった基準が共有されないまま利用が進めば、情報管理や品質の面で想定外の問題が起きる可能性がある。

これは個々の従業員の問題というより、利用実態を可視化し、最低限の基準を示す仕組みが整っていないことに起因する。今回の調査が示すのは、ツールの導入だけでは統制が伴わないという、運用面の課題である。

役割の変化が正式に認識されていない従業員が30%にのぼるという数字も、この空白と無関係ではない。誰がどの業務でAIを使い、その結果どこまで成果や責任が変わったのかが見えなければ、評価も研修も後手に回りやすい。利用の広がりと組織側の把握とのあいだに生じた時間差が、統制の難しさとして表れているといえる。

育成体制の巧拙が分かれ目になりうる

今回の調査が映すのは、AI投資や人員削減の議論の裏側で、既存従業員の育成という別の論点が立ち上がりつつある点だ。投資や採用と並んで、いま社内にいる人材をどうAIに対応させるかが、成果を左右する要素になりうる。

企業によって育成体制の整い方に差が出れば、同じツールを導入してもAI活用の成果に差が生じる可能性がある。これは個社への提言というより、業界全体で「育成の追いつき方」が新たな競争の変数になりうるという観察である。

今後の焦点

育成体制が利用の広がりに追いつくか

当面の焦点は、従業員のAI利用の広がりに、企業の研修・育成が追いつくかどうかである。自費での学習や場当たり的な習得が常態化したままなら、スキルの偏りや統制の空白が固定化しかねない。

逆に、利用実態の可視化と体系的な育成が進めば、個人任せだった学びが組織の力へと転じる余地がある。今回の調査は、その分岐点に多くの企業が立っていることを示している。

調査結果を読む上での留意点

今回の数値は、一企業による米英中心の調査にもとづくものである。業種や国・企業規模によって状況は異なりうるため、自社の実態と完全に重なるとは限らない。

それでも、AI活用が育成を追い越しているという大きな方向性は、複数の調査やレポートが共通して指摘するところでもある。個別の数値の精度よりも、活用と育成のあいだに広がるギャップという構図にこそ、注目する価値があるといえる。

※出典:Mind the Gap: New Cornerstone AI Skills Study Reveals Half the Workforce is ‘Winging It’(Cornerstone) / The Great Skills Merge(Skills Economy Report 2026・Cornerstone)

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