Anthropicの「三重の激動」——Mythos一般公開へ秒読み・評価額9,000億ドル超・政府との和解交渉が同時進行

※本記事は2026/05/26時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

「Anthropicが世界最高値のAIスタートアップになる可能性がある」——2026年5月下旬、複数の米メディアがこう報じた。同時にClaude Mythosの一般公開に向けた秒読みが始まり、Pentagon排除にもかかわらずNSAによるMythos使用という「ねじれ」の制度的解消も進んでいる。3本の巨大な流れが絡み合うAnthropicの現在地を整理する。

1. リークが生んだ「前倒し」圧力——Claude Mythos一般公開はいつか

2つの漏洩事件とその影響

2026年3月末、Anthropicは連続する情報漏洩に見舞われた。

1つ目は3月26日のCMS設定ミス。未公開の内部草稿約3,000件が外部からアクセス可能な状態になり、その中にClaude Mythos(内部コードネーム: Capybara)の詳細スペックが含まれていた。Anthropicはこれを認め「これまでで最も強力なモデルで、パフォーマンスのstep change(飛躍的向上)」と公式コメントを出した。

2つ目は3月31日のClaude Codeソースコード露出。npmパッケージの設定ミスでアジェンティック開発ツールのソースコードが流出し、GitHubにミラーリングされたことでテイクダウン申請が相次いだ。

2つの事件は性質が異なる——前者はモデル仕様情報、後者は既存ツールのコード——が、競合他社が内部情報を入手したという事実は変わらない。Anthropic社内では、この漏洩により「先手を打って公開する」圧力が高まっているとの報道もある。

Mythos Previewの現在地——Project Glasswingの拡大

Mythosは現在も一般公開されていないが、「Project Glasswing」を通じた限定展開が急速に広がっている。

4月の立ち上げ当初の12社から、5月末時点で約50社の大手テクノロジー・サイバーセキュリティ企業(AWS、Apple、Google、Microsoft、CrowdStrike、NVIDIAなど)に拡大。さらに重要インフラ事業者と政府機関への展開も進んでいる。

Project Glasswingの成果は数字にも表れた。最初の1ヶ月で、パートナー企業が自社・OSSプロジェクトのコードベースを対象に発見した高・重大の脆弱性は10,000件超。ユーザーから提供された事例では、1,000プロジェクト超で23,000件以上の潜在脆弱性を検出したケースも報告されている。これらの多くは、長年の人間レビューと従来型の自動スキャンをくぐり抜けてきたものだ。

Anthropicは「より強力なセーフガードを開発次第で一般公開する予定」との立場を維持しているが、リーク情報の拡散と競合他社の動きを受け、公開スケジュールが「数週間以内」に前倒しになる可能性があるとの見方も出ている。

2. 評価額9,000億ドル超——OpenAIを抜いて世界最大のAIスタートアップへ

5月末クローズが迫る大型ラウンド

2026年5月下旬、Anthropicは30億〜50億ドル規模の新たな資金調達を、評価額9,000億〜9,500億ドル超で交渉中であることが複数のメディアで報じられた。5月末にもクローズするとの情報もある。

実現すれば、OpenAIの評価額852億ドルを大きく上回り、Anthropicが世界最大の未公開AIスタートアップとなる。

リード投資家として名前が挙がるのはSequoia Capital・Dragoneer・Altimeter・Greenoaks。既存投資家のFounders Fund・General Catalystも参加予定とされる。

収益成長が評価額を支える

この評価額を正当化するのが、爆発的な収益成長だ。

時期ARR(年換算収益)
2026年2月約140億ドル
2026年4月300億ドル超
2026年5月440億ドル超

エンタープライズ需要を牽引しているのがClaude Codeだ。2025年5月の公開から6ヶ月でARR 10億ドルに達し、2026年初頭には25億ドル超に到達。今や1,000社以上の企業が年間100万ドル以上をClaudeに支出しており、企業インフラの中枢に組み込まれた存在として評価されている。

2026年前回ラウンド(2月:評価額380億ドル)からわずか数ヶ月でその約2.5倍に跳ね上がった評価額は、AI企業の成長スピードが従来の企業価値の尺度を完全に超えていることを示している。

また、この調達がIPO前の最終ラウンドと見る向きも多い。2026年10月頃には上場申請という観測もあり、そうなれば2026年はAIスタートアップ史上最大の上場事例として記録されることになる。

3. Pentagon排除・NSA使用・ホワイトハウス関与——「ねじれ」の構図と解消へ

対立の構図(経緯の整理)

2026年2〜3月、Pete Hegseth国防長官はAnthropicを「supply chain risk(供給連鎖リスク)」に指定した。理由は、Anthropicが「大規模国内監視」と「完全自律型兵器」へのClaude使用を制限するガードレールを外すことを拒否したためだ。

これは通常、敵対国企業に向けられる措置であり、米国内企業への適用は前例がなかった。トランプ大統領もTruth Socialで「全連邦機関はAnthropicの技術使用を即刻停止せよ」と発令したが、カリフォルニア州連邦地裁がこの命令の執行を差し止めた。Anthropicは違法・報復的指定として訴訟を提起し、法廷は現在も継続中だ。

ねじれの実態——NSAは使い続けている

4月19日、Axiosが2名の事情通の証言をもとに「NSA(国家安全保障局)がMythos Previewを使用している」と報じた。Pentagon傘下の機関が、PentagonがブラックリストにかけたベンダーのAIを使い続けているという、文字通りの矛盾だ。

理由は実務的なものだ。最前線のAIモデルを機密ネットワークで動かすには、NvidiaのGrace Blackwellシリーズのような高性能チップが必要だが、政府機関では深刻な不足状態が続いている。Anthropicのモデルは既存ハードウェアとの適合性が高く、かつサイバーセキュリティと情報分析の精度において代替が効かないとされた。

ホワイトハウスの関与と「制度的解消」への動き

5月時点で、この矛盾の制度的解消に向けた動きが進んでいる。

ホワイトハウス首席補佐官のSusie Wiles氏がNSAによるMythos使用を承認したという報道がある。さらに5月下旬には、政府機関がAnthropicのモデルを継続使用できる機密協定の最終調整が進んでいると報じられた。協定には「米国市民のデータを処理しない」などのカーブアウト(除外条項)が設けられ、Anthropicが守り続けてきた倫理上のガードレールとの整合性を確保する形になるとされる。

Dario Amodei CEOは「国家安全保障への貢献と倫理的制限の両立」を一貫して主張しており、ロビイスト会社「Ballard Partners」(トランプ政権との太いパイプを持つ)を雇ったことも判明している。法廷闘争と政治的交渉の二正面作戦が続いている。

3本の流れが示す「Anthropicの2026年夏」

この3つの動きを並べると、Anthropicが2026年夏に向けて向かう方向が見えてくる。

Mythos: リークの「おかえし」として、一般公開の前倒しという形で主導権を取り戻す動き。ただし「より強力なセーフガード開発」という前提条件は維持しており、誰でも使えるAPIリリースまでは段階的な展開が続く。

評価額: 440億ドル超のARRと、それを根拠とした9,000億ドル超の企業価値。IPO前の最終ラウンドという位置づけがあるとすれば、2026年後半の上場を見据えた評価の「着地点」を今まさに設定しているタイミングだ。

政府との関係: Pentagon対立は法廷で継続しつつも、ホワイトハウスとの実務協議・機密協定という別ルートで、現実的な着地を模索している。Mythosの能力が政府にとって不可欠である以上、この実用主義的な解決は時間の問題とも言える。

リーク騒動・資金調達・規制対立という3本の軸は、互いに独立したニュースのように見えて、実は「Mythosという突出した能力を持つAIを、誰がどの条件で使えるか」という一つの問いをめぐって絡み合っている。Anthropicの2026年夏は、その答えが出る季節になる。

※出典:Anthropic Claude Mythos Preview Cybersecurity Report(Anthropic公式) / Anthropic Nears $30 Billion Raise at $900 Billion Valuation(Investing.com) / NSA using Anthropic’s Mythos despite Defense Department blacklist(Axios) / The Next Web — Anthropic’s Amodei heads to the White House as Washington fights over Mythos access / Forbes — Anthropic’s Revenue Run Rate Has Skyrocketed to $44 Billion

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