EU AI法が8月2日に執行開始、38人の新チームがOpenAI・DeepSeekを監視
※本記事は2026/08/01時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
欧州連合(EU)では8月2日、AI法(EU AI Act)の新たな規則の適用と執行が始まる。欧州委員会のAI Office(欧州AI事務局)と各国当局が、対象に応じて監視と執行を担う。
AP通信が7月31日に報じたところによれば、EUはブリュッセルのAI Officeに38人を追加した。新たなチームは、新興企業からOpenAI・DeepSeekを含む米中の大手まで監視する。
同じ8月2日からは、AIとの対話やAI生成・加工コンテンツに関する透明性義務も適用される。AI Officeによる汎用AI(GPAI)モデル提供者への執行も始まり、AI法は段階的な実施の次の局面へ入る。
AI Officeに38人を追加し監視体制を増強
ブリュッセルの新チームが監視を開始
AP通信によれば、EUはブリュッセルのAI Officeへ38人を追加した。この人員が、世界のAI事業者を監視する新たなチームを構成する。
AI Officeは欧州委員会の内部に置かれ、GPAIモデル提供者に対するAI法の執行を担う。AIシステムについては、AI Office・加盟国当局・欧州データ保護監督官が対象に応じて役割を分担する。
監視対象は新興企業から米中の大手まで
AP通信は、新興企業から米国と中国の大手までが監視対象に入ると伝えた。具体的な企業としてOpenAIとDeepSeekを名指ししている。
AI法第2条は、EU域内でAIシステムやGPAIモデルを市場へ出す提供者に適用される。提供者がEU域内に所在するか、第三国に所在するかは問わない。
そのため、日本を含む域外企業もEU市場へAIサービスを提供すれば規制の対象になり得る。EU域内でAIシステムの出力を利用するケースも、一定の条件で適用範囲に入る。
AP通信が挙げた規則違反の例
AP通信は、追跡対象となる規則違反の例も挙げた。性的に露骨な内容の公開・偽の写真や動画・公共インフラに対するサイバー脅威である。
ただし、これらはAP通信が示した例であり、8月2日に同じ条項が一斉に適用されるという意味ではない。AI法は義務ごとに適用日が異なる。
苦情・内部告発を受け付ける経路を開設
AI提供者と働く人向けの内部告発窓口
欧州委員会は「Whistleblower Tool(内部告発ツール)」を開設した。AIシステムやGPAIモデルの提供者と働く人が、AI法違反の疑いを安全に通報するための経路である。
この内部告発ツールとは別に、GPAIモデルを利用してAIシステムを構築する川下提供者向けの専用窓口も設けられた。モデル提供者による違反の疑いを申告できる。
AI Officeの監督対象に関する苦情窓口
自然人と法人は「Complaint Tool(苦情申立てツール)」を利用できる。AI Officeが監督するAIシステムの提供者による違反の疑いを申し立てる窓口である。
欧州委員会は、これらの窓口で受け取った情報を機密として扱う。苦情や内部告発は、当局が調査対象を検討する際の端緒になり得る。
文書化義務と従業員への聞き取り
GPAIモデルの提供者には、一定の情報を文書化して所管当局や川下提供者へ示す義務がある。AP通信は、欧州委員会が調査の過程でAI企業の従業員へ聞き取りを行う権限も留保すると伝えた。
違反が認定された場合、制裁金やEU市場へのアクセス制限があり得る。市場での提供制限まで視野に入る点で、執行の影響は小さくない。
8月2日に適用が始まる透明性義務
対話相手がAIだと利用者へ伝える義務
欧州委員会によれば、8月2日から第50条の透明性義務が適用される。チャットボットなど人と直接やり取りするAIシステムは、対話相手がAIだと明らかなケースを除き、その事実を利用者へ伝える必要がある。
義務は4つの領域に整理されている。人と直接やり取りするAI・AIが生成または加工した内容・感情認識および生体情報による分類・ディープフェイクと公共の関心事に関するAI生成テキストが対象となる。
ディープフェイクの表示と機械可読マーキング
AIで生成または加工された画像・動画・音声のうち、ディープフェイクに当たるコンテンツは原則として表示が必要である。AIが生成・加工した内容には、機械が読み取れる形式のマーキングも原則として求められる。
欧州委員会は、透明性義務の実務対応を支える任意の行動規範も用意した。7月31日に公表した最初のリストでは、AI生成内容の透明性に関する行動規範へ180を超える組織が署名している。
欧州委員会は、透明性義務の目的として欺瞞や操作を減らす点を挙げる。人々が十分な情報に基づいて選択できる環境を整える狙いである。
制裁金は最大1,500万ユーロまたは売上高の3%
AI法第99条第4項(g)によれば、第50条の透明性義務に違反した場合の上限は1,500万ユーロである。違反者が企業であれば、全世界の年間売上高の3%と比べて高い方が上限となる。
ただし、中小企業には同条第6項の例外がある。中小企業の上限には、定額と売上高比率のうち低い方を適用する。
透明性義務の執行主体は一つではない。AI Officeは、基盤となるGPAIモデルと同じ提供者が提供するAIシステムなどを担当する。その他のAIシステムは加盟国の市場監視当局、EU機関が使うシステムは欧州データ保護監督官が執行を担う。
デジタル・オムニバスで変わった適用日程
高リスクAIの義務は2027年12月へ延期
8月2日にAI法の全ての義務が同時に適用されるわけではない。欧州委員会が2025年11月に提案したデジタル・オムニバスにより、高リスクAIの適用日程は変更された。
附属書III(Annex III)の単体型高リスクAIシステムに関する義務は、2027年12月2日へ延期された。附属書Iの製品組み込み型高リスクAIも、2028年8月2日へ移っている。
既存システムは12月2日までにマーキングへ適合
機械可読マーキングには限定的な経過措置がある。2026年8月2日より前に市場へ出た生成AIシステムは、第50条第2項へ2026年12月2日までに適合する必要がある。
経過措置は既存システムに限られる。8月2日以降に新たに市場へ出るシステムには、第50条第2項が同日から適用される。
対話型AIであることの告知やディープフェイクの表示なども、原則として8月2日から適用される。透明性義務の全体が先送りされたわけではない。
透明性義務とGPAIモデル規則の執行が先行
高リスクAIの適合性評価は延期された。一方、表示と告知を中心とする透明性義務は8月2日に適用が始まり、AI OfficeによるGPAIモデル提供者への執行も同日から開始される。
AI法は義務ごとに異なる日程で段階的に適用される。事業者にとっては、対象となるシステム・モデル・義務を切り分ける必要がある状況が2028年まで続く。
38人の増員と分担執行の実効性
域外事業者への執行がどこまで届くか
監視対象は新興企業から米中の大手まで広い一方、今回の追加人員は38人である。新チームがどの分野や事案を優先するかは、今後の執行実績を待つ必要がある。
Complaint ToolやWhistleblower Toolは、違反の疑いに関する情報を当局へ集める経路となる。こうした窓口が実際の調査へどう結び付くかも焦点となる。
AI Officeと各当局の役割分担
AI法の執行は、AI Officeが単独で担う仕組みではない。AI Office・加盟国の市場監視当局・欧州データ保護監督官が、監督対象に応じて役割を分ける。
欧州委員会は、実効的な執行には加盟国が所管当局を適切に指定し、十分な資源を与えることも重要だと説明した。各国の体制整備は、EU全体の執行を左右する要素となる。
最初の調査と制裁事案が次の確認材料
技術主権・安全保障・民主主義担当上級副委員長のヘンナ・ヴィルックネン氏は、執行の開始が、人々と企業が理解し信頼できるAIへ向けた重要な一歩になるとの趣旨を述べた。
今回の欧州委員会発表とAP通信の報道では、制裁金や市場アクセス制限を適用する具体的な事案までは示されていない。新体制の実効性は、今後の調査と執行の実績によって明らかになる。
次の焦点は、最初の調査がどの違反類型に向けられるか、加盟国当局の体制がどこまで整うか、既存システムのマーキング期限となる12月2日までに対応が進むかである。
※出典:Commission starts enforcing AI Act rules and new transparency requirements on 2 August(European Commission) / Commission starts enforcing AI Act rules and new transparency requirements on 2 August: IP/26/1714(European Commission) / Quick Facts: Transparency rules for AI systems(European Commission) / Regulation (EU) 2024/1689: Artificial Intelligence Act(EUR-Lex) / Regulation (EU) 2026/1744: Digital Omnibus on AI(EUR-Lex) / EU to crack down on AI deepfakes, illicit imagery and hacking with new team in Brussels(AP通信)