米PJMでデータセンター3GW超が一斉解列――送電設備故障が広域の電圧擾乱を招く
※本記事は2026/07/26時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
米国の地域送電機関PJMインターコネクションの管内で、7月22日朝、データセンターが相次いでバックアップ電源へ移行した。ReutersがPJMの運用データとして伝えたところでは、3ギガワット(GW)を超える需要が系統から離れた。当時のPJM需要の約3%に当たる。
発端は北バージニアの送電設備が運用から外れたことだった。負荷を切り離したのはPJMや電力会社ではなく、データセンター側の保護制御だった。大規模な負荷が似た条件で同時に動作したとき、系統全体へどのような影響が及ぶのかが論点となっている。
7月22日にPJM管内で起きたこと
北バージニアの送電設備が運用から外れる
事象が起きたのは、米バージニア州アッシュバーンを含むデータセンター集積地域である。ラウドン郡の公式資料によれば、2026年1月1日時点で完成済みのデータセンターは209件、建設中は43件に上る。
Reutersがドミニオン・エナジーの説明として報じたところでは、地域の送電設備が7月22日朝に運用から外れた。周辺施設の制御システムは電圧の変化を検知し、設備をごく短時間バックアップ電源へ移行させたという。
ドミニオンは、同社がデータセンターを意図的に切り離したわけではないと説明した。送電系統は設計どおりに動作し、数分以内に安定して通常状態へ戻ったとしている。
確認できる規模は「3GW超」
ReutersはPJMの運用データに基づき、3GWを超える需要が系統から離れたと報じた。PJMは周波数の変化を計測したものの、バルク電力システムの信頼度への影響はなかったと説明している。
TechCrunchなどは約30秒で3.1GWが離脱し、需給の余剰が最大3.49GWへ達したと報じた。しかし、PJMは2026年7月27日時点で公開の事象報告を出していない。PJM Data Viewerからも当該時間帯の履歴を取得できず、秒単位の数値は公式資料で確認できていない。
このため、確認できる中核は「3GW超」と「当時需要の約3%」である。正確な時間経過や最大余剰量は、PJMによる事象報告の公表待ちとなる。
Ting Labsは広域の電圧擾乱を観測
家庭向け電力センサー網を運用するTing Labsは、同社の140万個のセンサーが米東部からシカゴにかけて電圧擾乱を記録したと説明した。同社共同創業者兼CEOのボブ・マーシャル(Bob Marshall)氏によれば、安定化には約10分かかったという。
Reutersは、北バージニアの利用者から照明のちらつきや家電の異音が報告されたとも伝えた。ただし、Ting Labsの観測と利用者報告について、PJMによる詳細な測定結果は公表されていない。
施設側の保護制御が同時に動いた
系統側の指令による遮断ではなかった
今回の特徴は、系統運用者が一括して負荷を遮断したのではない点にある。施設ごとの制御システムが電圧の変化へ反応し、バックアップ電源への切り替えを判断した。
カナダのIESOに所属するアリ・ザイン・バナトワラ(Ali Zain Banatwala)氏は、各施設が数秒の差で解列したとの見方をTechCrunchに示した。Persistence Analytics Group創業者のニール・オスナート(Neil P. Osnato)氏は、3GW級の需要家応答は系統の挙動として計画・モデル化・検証する必要があると指摘している。
これらは専門家の分析であり、個々の施設の整定値が適切だったかを示すものではない。対象事業者・施設数・切替ロジックは公表されておらず、同時動作の詳しい仕組みは確定していない。
故障原因と対象施設は未公表
PJMとドミニオンは、バックアップ電源へ移った事業者や施設数を公表していない。3GW超の離脱が単一の顧客によるものか、複数キャンパスの合計かも不明である。
送電設備が運用から外れた直接原因も、2026年7月27日時点の公式情報では確認できない。今回の事象を扱うPJM・Dominion・NERCの公開報告も見当たらない。
2024年の事象で判明していた課題
230kV線路の故障で約1,500MWが離脱
PJM管内では2024年7月10日にも、大規模なデータセンター負荷の離脱が起きた。NERCの事象レビューによれば、名称を伏せた230kV送電線の避雷器が故障し、82秒間に6回の故障と電圧低下が発生した。顧客側の制御が反応し、データセンター型の負荷約1,500メガワット(MW)が系統から離れた。2026年の3GW超は、確認できる規模だけで比較しても2024年の約2倍となる。
NERCの記録では、2024年事象で周波数は60.047ヘルツまで上昇し、約4分で60ヘルツへ戻った。NERCはこの周波数上昇について、懸念を生じる水準ではなかったと評価している。
自動離脱と復帰の非対称性
大規模な負荷が失われると、供給が需要を上回り、周波数が上昇し得る。2024年事象では電圧も上昇し、運用者は一部の調相設備を系統から外して対応した。
離脱は顧客設備の制御で自動的に起きた一方、一部のDRUPSは復帰に手動操作を要した。約1,260MWの負荷は数時間にわたり系統外にとどまっている。復帰のタイミングも系統運用上の論点となる。数GWの負荷がまとまって戻れば、離脱時とは逆方向の需給変化を生むためだ。
蓄電池容量には大きな地域差
PJMが2025年4月に示した資料では、系統接続済みの蓄電池容量はPJMで501MWだった。同じ資料のERCOTは7,740MW、CAISOは11,200MWである。比較時点をそろえても大きな差があった。
ただし、蓄電池容量は急速に増えている。地域間の現在値として読むのではなく、2025年4月時点の系統構成を示す比較である。
NERCは今回の事象を確認中
NERCで信頼度評価・性能分析を担当するジョン・モウラ(John Moura)氏は、Data Center Knowledgeに対し、今回の事象を通常のシステム性能監視・分析プロセスで確認していると述べた。
モウラ氏は、この種の事象は関心の対象だとする一方、広範な教訓を引き出すには早いとの見方も示した。2026年7月27日時点で、NERCの個別事象レビューは公表されていない。
制度・技術の対応と需要規模の見通し
NOGRR282・NPRR1308は8月1日発効予定
テキサス州の系統運用者ERCOTでは、大規模計算負荷を対象とする制度整備が先行する。運用ガイド改定NOGRR282とプロトコル改定NPRR1308は、テキサス州公益事業委員会(PUCT)が2026年7月9日に承認した。ERCOT公式ページは8月1日を発効日としている。
最終的な対象名称はLarge Computational Load(LCL)である。提案過程で使われたLarge Electronic Load(LEL)から変更された。LCLは、同一サイトの合計ピーク需要が75MW以上の大規模負荷のうち、需要の50%以上をパワーエレクトロニクス経由の計算負荷が占める施設を指す。データセンターや暗号資産マイニング施設などが対象となる。
2025年11月14日は提出日と適用基準日
ERCOTはNOGRR282とNPRR1308を2025年11月14日に提出した。同時に、この日より前に受電承認を得た施設は非遡及の対象となる。
大規模負荷接続調査を完了し、送配電事業者との接続契約を同日前に締結した施設も適用から外れる。適用除外は、この二つの条件のいずれかを満たす施設に限られる。承認された改定は、所定の電圧・周波数範囲で接続を維持するライドスルーを求める。計測にはフィルタや時限を設け、短い変動で不要な解列が起きることを抑える。
要件を満たさず、信頼度リスクが差し迫る場合、ERCOTは適合が確認されるまで切り離しを求められる。PUCTが承認したと報じられたライドスルー規則は、このNOGRR282・NPRR1308と同じ改定パッケージである。
キャンパス全体を対象とするUPS
ON.Energyは、サーバーだけでなく冷凍機などを含むキャンパス全体向けの無停電電源システムを開発した。同社の説明では、電力変換装置と蓄電池を介し、系統から見た負荷変動を抑える設計となる。
同社共同創業者兼CTOのリカルド・デ・アゼベド(Ricardo de Azevedo)氏は、4か所のデータセンターキャンパスで計3GW分を導入中だと説明している。導入量と性能は同社の自己申告であり、独立した運用実績の評価ではない。
需要比率の見通しと集積の密度
Synapse Energy Economicsの分析では、PJM管内のデータセンターによる年間電力使用量は2023年に50テラワット時だった。PJM全体の6%に相当する。
同社のモデルでは、2040年に350テラワット時へ増え、全体の24%を占める。これは年間電力使用量の比率であり、瞬間的な最大需要電力の比率ではない。ラウドン郡の完成済み・建設中施設の床面積は、2026年1月1日時点で合計約5,352万平方フィートに達する。大規模負荷が狭い地域へ集中する構造は、個別施設の運用を系統全体の問題へつなげる背景となる。
PJMは6月末、猛暑に備えてバックアップ発電機の緊急使用に関する手続きを整えた。7月初めには新しい警告を運用したが、今回の自動解列との因果関係を示す情報はない。
日本で確認できるのは需要量の増加
2035年度の個別計上は762万kW
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2026年1月21日に公表した需要想定では、2035年度の全国の需要電力量を846,129百万kWhと見込む。データセンターと半導体工場の新増設分は、2024年度供給計画から個別に積み上げている。
個別計上分の最大需要電力は、2026年度の83万kWから2035年度に762万kWへ増える。2035年度の内訳はデータセンター661万kW・半導体工場101万kWで、全国の最大需要電力の4.63%に当たる。
需要電力量では2035年度に568億kWh、全国比6.71%となる。OCCTOはデータセンターの計画見直しにより、需要増加の一部が後年度へずれたとも説明している。
保護制御の実態は需要予測だけでは分からない
OCCTOの個別計上は北海道・東北・東京・中部・関西・中国・九州に分布する。ただし、需要想定は各施設の保護整定値や切替ロジックを示す資料ではない。
日本で同時解列リスクがどの程度あるかは、この需要予測だけでは判断できない。地域別の立地に加え、電圧・周波数ライドスルー特性や復帰手順を確認する別の技術情報が必要となる。
PJMの事象が示したのは、データセンターの系統影響を年間消費量だけでは捉えきれないという点だ。3GW超の負荷が短時間に離れたとの報告は、施設側の保護動作と復帰を系統計画へ織り込む必要性を浮かび上がらせた。
※出典:Who We Are(PJM) / PJM Data Viewer(PJM) / Massive disconnect of power roiled largest U.S. electric grid(Reuters配信版) / One fallen power line exposed a growing AI data center problem. Here’s how to fix it.(TechCrunch) / Fault in Data Center Alley Triggered 3 GW Load Drop on PJM(Data Center Knowledge) / Incident Review: Large Load Loss(NERC) / Primary Frequency Control Reliability Guideline(NERC) / Battery Storage in PJM(PJM) / NOGRR282(ERCOT) / NPRR1308(ERCOT) / NOGRR282・NPRR1308取締役会資料(ERCOT) / PJM Data Center Modeling Results(Synapse Energy Economics) / 2026 Data Center Guidelines(Loudoun County) / 全国及び供給区域ごとの需要想定(2026年度)(電力広域的運営推進機関)