Google、Gemini新モデル3種を発表――3.6 Flashはトークン17%削減、Flash Cyberは政府・提携先へ限定提供
※本記事は2026/07/22時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
Googleは2026年7月21日、Geminiモデルの新ラインナップとしてGemini 3.6 Flash、3.5 Flash-Lite、3.5 Flash Cyberの3種を発表した。3.6 Flashと3.5 Flash-Liteは同日から提供を開始し、3.5 Flash Cyberは近日中に政府機関と信頼できる提携先へ限定提供する予定である。
Googleは今回のラインナップについて、AIエージェントを大規模に構築する顧客へ効率性・低遅延・信頼性を届けると説明している。最高性能だけを追うのではなく、エージェント運用の効率と用途に応じた選択肢を広げる発表となった。
Gemini 3.6 Flash――「主力モデル」のトークン効率を底上げ
Googleが「ワークホースモデル」と呼ぶ主力モデルの更新にあたる。コーディング、知識作業、マルチモーダル処理を改善しながら、トークン消費と出力単価を下げた点が特徴である。
コーディングとマルチモーダルの性能向上
Gemini 3.6 Flashは、前世代の3.5 Flashと比較して、コーディング、知識作業、マルチモーダル処理の各領域で改善したとGoogleは説明している。
Googleが公表したベンチマークでは、コーディング系のDeepSWEスコアが37%から49%へ、機械学習研究の評価に使われるMLE Benchが49.7%から63.9%へ上昇した。OSWorld-Verifiedは78.4%から83.0%に、GDPval-AA v2は1,349から1,421に伸びている。
法律系AIを手がけるHarveyは、自社ベンチマークで3.6 Flashが前世代よりタスクを平均12%速く完了したとGoogleへのコメントで説明した。これはHarveyの社内評価であり、全ての用途で同じ改善幅を保証する数値ではない。
トークン消費の17%削減と価格設定
Artificial Analysis Indexでは、3.6 Flashが3.5 Flashより17%少ない出力トークンでタスクを処理した。Googleは、コーディング特化のDeepSWEでは最大65%の削減を観測したとしている。
価格は入力100万トークンあたり1.50ドル、出力100万トークンあたり7.50ドルに設定された。出力側は3.5 Flashの9.00ドルから引き下げられている。Googleは、少ない出力トークンと低い出力単価により、エージェントの1タスクあたりのコストを抑えられると説明している。
一方、Artificial Analysisの総合知能スコアでは、3.6 Flashと3.5 Flashはいずれも50だった。Google公表の個別ベンチマークでは改善が見られるが、外部評価で性能全般の向上が確認されたわけではない。
また、コンピュータ操作機能(Computer Use)が、Gemini APIとGemini Enterpriseのクライアント側組み込みツールとして提供された。画面を見ながら操作を実行するエージェントの構築に利用できる。
Gemini 3.5 Flash-Lite――3.5クラスの低価格モデル
Flash-Liteは、高スループットと低遅延を重視したモデルである。大量の文書処理や軽量なエージェント処理に向けて、速度と性能を含めた費用対効果を訴求している。
高スループット・低価格のエージェント向けモデル
3.5 Flash-Liteは、Googleが3.5クラスで最速かつ最も費用対効果が高いと位置付けるモデルである。Artificial Analysisの計測では、毎秒350出力トークンを記録した。
価格は入力100万トークンあたり0.30ドル、出力100万トークンあたり2.50ドルに設定されている。3.6 Flashと比べると、入力単価は5分の1、出力単価は3分の1だ。
Googleはこのモデルを、2.5 Flashや、比較的複雑性の低い3 Flashワークロードからの移行先として案内している。エージェント検索、文書処理、高スループットが必要な処理を主な用途に挙げた。Google検索でも順次展開が始まっている。
ただし、旧3.1 Flash-Liteより全ての面で安いわけではない。Artificial Analysisによると、3.1 Flash-Liteの価格は入力0.25ドル、出力1.50ドルで、新モデルの1タスクあたり平均コストも同社の評価では0.04ドルから0.09ドルへ上昇した。新モデルの強みは単純な最安値ではなく、速度と性能を含めた費用対効果にある。
「コストパータスク」で比べる必要性
3.5 Flash-Liteの投入からは、Googleがベンチマークの得点だけでなく、1タスクあたりのコストを重視していることが読み取れる。エージェントがタスクを繰り返す運用では、API単価だけでなく、出力トークン数、処理速度、完了率の組み合わせが事業採算に影響する。
このため、モデル選定では最も安い単価だけでなく、対象業務を完了するまでの総コストを見る必要があるだろう。今回のFlash-Liteは、その選択肢を3.5クラスに追加する位置付けである。
Gemini 3.5 Flash Cyber――脆弱性対応に特化、政府・提携先へ限定提供
Flash Cyberは、サイバーセキュリティに特化したモデルである。能力のデュアルユース性を考慮し、一般公開せずに提供先を限定する方針が採られた。
CyberGym・Big Sleep・V8で異なる評価を実施
3.5 Flash Cyberは、ソフトウェアの脆弱性の発見・検証・修正に特化してファインチューニングされたモデルである。GoogleのCodeMenderでは、複数のFlash Cyberエージェントを動かし、結果を一つの報告書へまとめる。
CyberGymでは、CodeMenderが一つの最終報告に対してFlash Cyberを最大5回呼び出す構成により、前線級の大規模モデルに競争力のある性能を示した。ただし、Googleによると、比較対象の結果には各社が自己申告したスコアが含まれる。
GoogleのBig Sleepチームによる別の評価では、Flash Cyberが3.5 Flashと3.6 Flashを大きく上回った。さらにV8 JavaScriptエンジンを対象とした検証では、55件の固有の確認済み問題を発見した。3.5 Flashの47件、Claude Opus 4.6の36件を上回る結果である。
これらはGoogleが実施・公表した評価であり、独立した第三者評価ではない。評価環境が異なる結果を一つの順位として扱わない点にも注意が必要だ。
限定アクセスの設計思想
このモデルは、2026年7月21日時点で一般提供されていない。Googleは、近日中にCodeMenderの限定アクセスパイロットとして、政府機関と信頼できる提携先だけに提供する予定である。
Googleは、脆弱性の発見と修正に使える技術には攻撃へ転用できるデュアルユースの側面があると説明している。防御側の利用を先行させながら、広範な悪用を抑えるために配布範囲を制限した形のようだ。
Gemini Proの不在――上位モデルは「パートナーテスト中」
今回の発表に、Gemini 3.5 Proは含まれなかった。公開済みのProモデルでは、2026年2月に発表されたGemini 3.1 Proが直近となる。
待望のフラッグシップは今回も見送り
Googleは2026年5月、3.5 Proを翌月に展開する見通しを示していた。一方、Bloombergは7月16日、関係者への取材に基づき、コーディングを中心とする能力改善に時間を要し、投入が予定より数カ月遅れていると報じた。これはGoogleが公式に遅延理由を認めたものではない。
Googleの7月21日の公式発表では、3.5 Proを現在パートナーとテストしており、準備が整い次第、広く提供する方針を示した。具体的な提供時期は明らかにしていない。
実務モデルを先に拡充
Proの提供を待つ間も、Googleは主力の3.6 Flash、3.5クラスのFlash-Lite、用途特化のFlash Cyberを発表した。今回のラインナップからは、単一の最高性能モデルだけでなく、用途ごとに速度、コスト、機能を選べる構成を整える意図が読み取れる。
ただし、これを業界全体の競争軸が最高性能からコストへ完全に移った証拠とまでは言えない。上位モデルの性能競争と、実務向けモデルの費用対効果をめぐる競争が並行していると見る方が妥当である。
エージェント運用の総コスト
企業がAIエージェントを日常業務に組み込む際は、APIのトークン単価に加え、タスク完了までに必要なトークン数、ツール呼び出し回数、応答速度、完了率を含めて比較する必要がある。
「1タスクあたりのコスト」をどう比べるか
3.6 FlashでGoogleが強調した「1タスクあたりのコスト」は、こうした評価方法を前面に出したものである。単価の低さだけでなく、タスクを完了するまでの総量と時間を測る視点が重要になる。
Googleは主力モデル、低遅延・高スループットモデル、サイバーセキュリティ特化モデルの3種類を発表し、エージェント向けの選択肢を広げた。今後は、各社のモデルについて、同一条件の実務タスクで総コストと成功率を比較できるかが選定上の焦点になるだろう。
※出典:Introducing Gemini 3.6 Flash, 3.5 Flash-Lite, and 3.5 Flash Cyber(Google) / Introducing Gemini 3.5 Flash Cyber(Google DeepMind) / Gemini 3.6 Flash and Gemini 3.5 Flash-Lite: Halving Time per Task(Artificial Analysis) / Google Gemini Launch Delayed as Tech Falls Short of Goals(Bloomberg) / Google releases three new Gemini models — but no 3.5 Pro(TechCrunch)