出版大手3社とスコット・トゥロー氏がGoogleを提訴 Gemini学習用の書籍利用をめぐる著作権訴訟が拡大
※本記事は2026/07/15時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
Hachette Book Group(アシェット)・Cengage Learning(センゲージ)・Elsevier(エルゼビア)の出版大手3社と、ベストセラー作家Scott Turow(スコット・トゥロー)氏が2026年7月10日、Googleを相手取り著作権侵害訴訟を提起した。原告は、GoogleがGemini大規模言語モデルの学習に数百万点の書籍・学術論文を無断で使用したと主張している。Hachetteなどは7月13日に提訴を公表した。
訴えはニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出された集団訴訟を目指すもので、原告にはTurow氏が社長を務め、同氏の著作権を保有するS.C.R.I.B.E.も含まれる。出版社側は、Google Books・Google Play Books・Google Scholarの3つのプログラムを通じてGoogleが取得した作品を、当初の利用目的を超えてAI学習に転用したと訴えた。
Google Books・Play・Scholarの3経路から転用したとの主張
訴状を特徴づける論点の一つが、Googleの既存サービスを通じて取得された作品の利用目的である。
Google Booksについて、原告側は2015年の控訴裁判所判決を引き合いに出した。同判決は、Googleによる書籍のスキャンと検索・スニペット表示のための複製をフェアユースと認めたものである。原告は、判決がAI学習という別の用途まで適法と判断したものではないと主張する。
もっとも、同判決はAI学習を扱っておらず、Google Booksのスキャンを他用途に使うことを一律に禁じたわけでもない。AI学習への利用がフェアユースに当たるかは、本訴訟で改めて争われることになる。
Google Play Booksについても同様の主張がなされた。同プログラムは出版社・著者が電子書籍を販売する小売店舗であり、コンテンツ提供の目的は認可された電子書籍の販売に限られていたとする。また、Google Scholarは数百万点の学術論文へのアクセスを提供するものだが、出版社が全文データを提供した目的はGoogle Scholarの検索エンジンの運用に限定されていたと訴状は指摘した。
さらに、原告はGoogleがこれら既存プログラムからの転用に加え、ペイウォール(有料壁)の背後からのスクレイピングや既知の海賊版サイトからもコンテンツを取得していたと主張している。
著作権管理情報の除去という追加争点
訴状にはもう一つ重要な論点がある。Googleが著作権管理情報(CMI: Copyright Management Information)を意図的に除去または変更し、Geminiモデルが盗まれた素材で訓練されたことを隠したとの主張だ。
米国著作権法のDMCA第1202条は、権限なくCMIを意図的に除去・変更し、それが著作権侵害を誘発・可能に・促進・隠蔽すると知っている場合、または民事上はそう知る合理的な根拠がある場合を禁じている。訴状はCMI除去を著作権侵害とは別の請求として提起した。
ただし、AI学習がフェアユースと認められてもCMI除去が自動的に違法となるわけではなく、Googleの行為と認識が同条の要件を満たすかが別途判断される。
訴状が引用するGoogle内部文書のリスク認識
訴状の中で、とりわけ注目を集めたのがGoogleの内部文書とされる記述である。訴状によると、Google社内の文書には、出版社から提供された著作物をAI学習に使用することが「Googleにとって非常に問題となりうる(highly problematic for Google)」と記載されていた。
同文書は、潜在的な罰金が「数百億~数千億ドル規模($10Bs-$100Bs)」に達する可能性にも言及していたという。別の社内分析では「書籍出版社は、自社の書籍に対するLLM学習を著作権侵害と見なす可能性が高い」との認識が示されていたとされる。
さらに、データ訓練に対する出版社の感度と「フェアユース抗弁をめぐるリスクの高まり」についても社内で認識されていたと訴状は記載している。Googleは7月14日時点で、TheWrapやGuardianの取材にコメントしていない。
「20分・39セントで100ページの推理小説を生成」
訴状は、著作権侵害による市場への影響を示す例として、Geminiの生成能力にも言及した。
原告の主張によると、Geminiは「著作権のあるオリジナルの推理小説に代替しうる100ページの推理小説」を20分で生成でき、コストは39セントである。訴状は「出版社にも著者にも、それと競争することはできない」と述べた。
この論点は、フェアユース判断の4要素のうち「著作物の潜在的市場への影響」に関わる。生成AIが学習元の著作物と競合する市場代替物(market substitute)を生み出しうるかどうかは、今後の裁判における重要な争点となる可能性が高い。
ニューヨーク管轄とAI著作権訴訟の先行判断
訴状は、ニューヨーク市が米国出版業界の中心であることを管轄の根拠に挙げている。HachetteとElsevierが同市に本社を置き、Googleも同地区に複数のオフィスとAI関連人員を抱えることなども理由としている。
一方、カリフォルニア州の連邦裁判所では、AI学習における著作物の利用をフェアユースとする判断が先行している。2025年6月、William Alsup判事はBartz v. Anthropicで、LLM学習のために作成された複製自体はフェアユースに当たると判断した。また、Anthropicが購入した紙の書籍をデジタル化し、元の紙の複製を廃棄して保管した行為も別の理由からフェアユースとした。
その一方で判決は、海賊版サイトからダウンロードした書籍を、学習に使わないものも含めて恒久的な中央ライブラリに保管した行為については、フェアユースで正当化されないとした。つまり、学習利用の適法性と、海賊版の取得・保管という別の用途を分けて判断した形だ。
Anthropicはその後、海賊版書籍の取得・保管に関する請求について15億ドル規模(約2,400億円)の和解案で合意した。和解は予備承認されているが、2026年7月15日時点では最終承認を待っている。公式和解サイトは、これを著作権集団訴訟として史上最大の和解と説明している。
HachetteとCengageは以前、カリフォルニア州北部地区で進行中のIn Re Google Generative AI Copyright Litigationへの参加を求めていた。しかし、両社はニューヨークで独自訴訟を提起したことを受け、7月10日に参加申立てを取り下げた。
AI著作権訴訟に「既存サービスの目的外利用」という論点
今回の訴訟は孤立した動きではない。Google訴訟の原告3社は、MacmillanとMcGraw Hillを加えた出版社5社やTurow氏らとともに、約2カ月前にもMetaとMark Zuckerberg氏を相手取る類似の著作権侵害訴訟をニューヨークで提起している。
AI学習データをめぐる著作権訴訟では、データの取得経路と、取得後の学習利用がフェアユースに当たるかという二つの問題が争われてきた。New York TimesによるOpenAIへの訴訟や、Getty ImagesによるStability AIへの訴訟に加え、著者が書籍の学習利用を争う訴訟も2023年以降相次いでいる。
今回のGoogle訴訟を特徴づけるのは、海賊版サイトやペイウォールからの取得に加え、Google Books・Google Play Books・Google Scholarを通じてGoogleがすでに保有していた作品を、当初の目的を超えてAI学習に利用したとの主張である。
ただし、Google Booksの複製は契約上のライセンスではなく過去のフェアユース判決に基づくものも含まれるため、本件を一律に「既存ライセンスの逸脱」と整理することはできない。
対象となる著作物は、フィクション・ノンフィクション・児童書・回顧録・詩・教育教材・学術論文と広範であり、「数千の主題にわたる数百万点の作品」に及ぶと訴状は記載している。大手出版社が、Googleの既存サービスで取得された書籍・学術出版物のAI学習利用を集団訴訟として正面から問うことで、データ取得時の目的と、その後のAI利用との関係が改めて争点となった。
※出典:Hachette v. Google Class Action Complaint(Association of American Publishers) / Publishers and Authors File Class Action Lawsuit Against Google for Willful Copyright Infringement to Develop Gemini AI Models(Hachette Book Group) / U.S. Publishers Sue Google, Alleging Massive Copyright Infringement Behind Its Gemini AI Service(Publishing Perspectives) / Hachette, Scott Turow Sue Google for Using Books to Train AI(TheWrap) / Bartz v. Anthropic Order on Fair Use(U.S. District Court, N.D. California) / Anthropic Copyright Settlement公式サイト / 17 U.S.C. § 1202(Cornell Legal Information Institute) / Dollar on back foot as softer US inflation dims Fed hike bets(Reuters)