ELYZA、「AIによるAI開発」の研究組織を設立――自社の整理では「RSIに至る前段階」、公開したのは2モデルとCS業務の評価ベンチマーク

ELYZA、「AIによるAI開発」の研究組織を設立――自社の整理では「RSIに至る前段階」、公開したのは2モデルとCS業務の評価ベンチマーク

※本記事は2026/10/03時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

ELYZAは10月2日、「AIによるAI開発」の研究を進める組織「ELYZA RSI Research」を設立すると発表した。RSIは再帰的自己改善(Recursive Self-Improvement)の略で、AIが自身の能力や開発プロセスを反復的に改善し、その成果を次の開発に生かす取り組みを指す。

ただしELYZAは同じ発表で「現時点ではRSIに至る前段階の要素技術の研究であり、RSIそのものを実現したわけではございません」と明記した。実際に公開されたのは、商用利用できるApache-2.0の2モデルと、日本語のカスタマーサービス(CS)業務を題材にしたAIエージェントの評価ベンチマークだ。

ハーネス改善で示された数値はELYZA自身の計測で、条件の一部は10月3日時点の公開資料で確認できなかった。本記事では、研究組織の看板と、いま手に取れる成果物・数値を分けて整理した。

10月2日の発表と、ELYZAが示した到達段階

ELYZAは10月2日、研究組織の設立・研究成果の公開・新事業の開始を一度に発表した。発表文では、自社の研究がどの段階にあるかを領域ごとに図で示している。

研究組織・2モデル・ベンチマーク・Voice Agentを同日に発表

発表はELYZAの公式サイトに掲載され、PR TIMESでは10月2日12時20分に配信された。AI Watchによると、ELYZAは同日に都内で記者会見を開き、曽根岡侑也代表取締役が説明した。ELYZAは東大・松尾研究所から生まれたAI企業で、2024年からKDDIグループに属している。

研究成果は、基盤モデルの開発・ベンチマークの半自動作成・自律的なハーネス改善の3つだ。このうち2モデルとベンチマークは、発表と同じ日に公開された。

あわせてELYZAは、研究で築いた「自律研究基盤」を使い、業界・業務に特化したバーティカルAI事業を始めるとした。その第一弾が音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」の開発だ。

ELYZAは「RSIに至る前段階」の研究と位置付けた

研究の進み具合について、ELYZAは「現時点ではRSIに至る前段階の要素技術の研究であり、RSIそのものを実現したわけではございません」と書いた。組織名にRSIを掲げつつ、今回の成果はその手前にあるという位置付けだ。

ELYZA RSI Researchでは、AIエージェントが基盤モデルやハーネスを開発・改善し、その成果を評価機構で検証する仕組みを研究する。ハーネスは、AIエージェントの動作やツール利用を制御する仕組みを指す。

将来的には、開発・改善を担うAIエージェント自身も改善の対象に含め、再帰的な改善サイクルの実現を目指すという。

4段階の整理では、Step.4はどの領域も未到達

ELYZAは「AIによるAI開発」の進み具合を4つの段階に分けた。この枠組みは、論文「Recursive Self-Improvement in AI: From Bounded Self-Refinement to Autonomous Research Loops」を元にELYZAが作成したものだ。

  • Step.1(Human-Only):「基本的に人が全てを担当」。
  • Step.2(Human-in-the-loop):「目的・評価基準を決め、AIの改善案を人が都度判定」。
  • Step.3(Human-on-the-loop):「目的・評価基準を決め、成果物のみ人が判断。個々の変更を都度確認はしない」。
  • Step.4(Closed loop):「人が目的と制約(権限や守る基準)を設定するのみで、改善ループが回り続ける(リスクがあるので、安全環境が必要と認識)」。

ELYZAは、この4段階に照らした自社の到達段階も、基盤モデル・ハーネス・評価機構の領域ごとに示した。基盤モデルはパラメータ数で2行に分かれており、内容は次の通りだ。

領域ELYZAが示した到達段階図中の説明
基盤モデル(パラメータ数1000億~数兆)記載なし記載なし
基盤モデル(パラメータ数1000億以下)Step.1(Human-Only)少ない工数でPost-training
ハーネスStep.3(Human-on-the-loop)ほぼ全自動でハーネス改善
評価機構Step.2(Human-in-the-loop)半自動でベンチマーク開発

ELYZA自身の整理では、1000億パラメータ以下の基盤モデルはStep.1、ハーネスはStep.3、評価機構はStep.2に位置付けられた。人が目的と制約を決めるだけで改善ループが回り続けるStep.4には、どの領域も達していない。AI Watchも、記者会見で同じ段階の説明があったと報じた。

公開された2モデルと、性能表が比べた範囲

ELYZAが公開した2モデルは、国立情報学研究所 大規模言語モデル研究開発センター(LLMC)が開発した国産オープンモデル「llm-jp-4」を基にしている。発表文の性能の図は、llm-jp-4系の公開モデルと比べたものだ。

33bと32b-a3bの2モデル、ライセンスはApache-2.0

公開されたのは「ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-33b」と「ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-32b-a3b」で、Hugging Faceで取得できる。

ベースはそれぞれllm-jp-4-33b-baseとllm-jp-4-32b-a3b-baseで、32b-a3bは処理ごとに一部の専門家ネットワークだけを動かすMoE(Mixture of Experts)型だ。

ライセンスは2モデルともApache-2.0で、ベースのllm-jp-4もApache License 2.0で公開されている。ELYZAは「商用利用可能な形で」公開したと説明した。Apache-2.0は、条件に従った商用利用を認めるライセンスだ。

モデルカードによると、ELYZAはベースモデルの上でMid-training・SFT(教師ありファインチューニング)・強化学習の3段階の学習を行った。

発表文では、人が介在する作業を1~2人日程度に抑えながら、Mid-training・Post-trainingから評価までを実行したとしている。どの作業を人の工数として数えたかは、確認した資料に書かれていない。

性能表の比較対象はllm-jp-4系の公開モデル

発表文の性能の図は、「llm-jp-4 系の Post-training 済み公開モデルを、20種類のベンチマークで評価を実施した総合スコアで比較」した図で、値はいずれもELYZAが示したものだ。

Dense型(MoEではない通常の構造)の比較では、33bは61.7で、llm-jp-4.1-33B-thinking(high)は60.6、llm-jp-4-33B-thinking(high)は51.5だった。

MoE型の比較では、32b-a3bは58.5で、同じ図のllm-jp-4.1-32B-A3B-thinking(high)は53.9、llm-jp-4-32B-A3B-thinking(high)は46.4だ。

モデルカードの評価表には、llm-jp-4系以外のモデルも並ぶ。33bの表ではQwen3.5-27B・Gemma 4 31B、32b-a3bの表ではNemotron 3.5 Lightning 30B-A3B・Qwen3.5-35B-A3B・Gemma 4 26B-A4Bの総合スコアが、ELYZAのモデルより高い。

「完全国産」の表記はITmediaが訂正した

モデルカードには「Fully domestic foundation」という項目があり、llm-jp-4はLLM-jpが日本でゼロから事前学習し、その後の学習は全てELYZAが行ったと書かれている。ITmedia AI+は当初、この記述を基に見出しと本文で「完全国産」と表記した。

ITmediaは10月2日20時04分に記事を更新し、この表記を変えた。ELYZAから「単純に国内の企業で作成したという意図で『Fully domestic foundation』と記載していたが、『完全国産』という日本語訳のニュアンスがわれわれの想定と異なった」との説明があったためだ。

この経緯を踏まえ、本記事では「完全国産」という語を使わず、2モデルを「国産オープンモデルllm-jp-4を基にしたモデル」と表す。

CS業務のAIを測るベンチマークの設計

研究成果の2つ目は、日本語のCS業務を題材にしたベンチマーク「ELYZA Agent Tasks: Customer Service」だ。ELYZAはベンチマークの作成をAIで半自動化する研究の一環と位置付け、GitHubでApache-2.0のもとで公開した。

4ドメイン96シナリオを、テキストと音声で評価

ベンチマークは、通信・EC/フリマ・宿泊・宅配の4ドメイン96シナリオで構成される。通常の顧客を想定したbaselineと、規定外の要求・発話の訂正・不安や不満の表現を含むhardの2条件があり、テキストと音声の両方で評価できる。

1シナリオあたり187~200件の手順書と92~100本のツール定義が用意され、対応の種別は変更・案内・拒否・エスカレーション・折返しの5種類だ。顧客役と採点用のLLMジャッジにはgpt-5.6-lunaを使い、全シナリオの実行に約35分とAPI利用料金がかかる。

データは全て合成で、組織名・人名・電話番号は架空のものだ。ELYZAは、データをモデルの学習に使うことは控えてほしいとしつつ、Apache-2.0に追加の利用制限を設けるものではないと書いている。

自己申告では達成と判定せず、4種類の証跡で照合

評価では、実行後の業務データベース・ツールの実行履歴・応対記録・会話ログの4種類の証跡を、正解や採点条件と照合する。READMEは「モデルによる自己申告のみでは、タスクの達成とは判定しません」と明記した。

発表文が評価の観点に挙げたのは、適切な業務手順(SOP)の選択・SOPに沿った処理・ツールの正しい利用・最終的な処理結果の正しさだ。テキストモードは7カテゴリ11指標で評価し、音声モードには重要値の保持や音質を含む5つの指標が加わる。

結果はカテゴリごとの得点で示し、総合点は設けていない。READMEは理由として、「対話は丁寧でも業務を完了できない場合」と「業務は完了できても規定に反する操作を行った場合」が一つのスコアにまとまると、個別の結果が見えにくくなる点を挙げた。

公開された評価結果は、各条件1回ずつの実行

READMEには、2026年10月2日時点でテキスト6モデル・音声3モデルを評価した結果が載っている。各シナリオは条件ごとに1回ずつ実行され、ELYZAは「試行間のばらつきは測定しておらず、モデルの一般的な性能や優劣を断定するものではありません」と書いた。

ELYZAの2モデルは、この評価結果の表に含まれていない。READMEが本文で取り上げたのは、音声モデル3種で対話品質と業務遂行のカテゴリの間にスコアの差が見られた点だ。

例として、gpt-realtime-2.1は「対話品質」が0.733、「ツール」が0.198だった。総合点を設けずにカテゴリを分けて示す設計によって、こうした差が表の上に現れる。

ハーネス改善の数値と、Voice Agentの提供状況

研究成果の3つ目は、自律改善エージェントによるハーネスの改善だ。数値はELYZAの計測によるもので、測り方の一部は10月3日時点の公開資料で確認できなかった。

開発系で14.4ポイント・27.2ポイント、CSで完遂率34.3%→52.9%

ELYZAは、2種類の開発系ベンチマークで自律改善エージェントにハーネスを改善させ、タスク成功率がそれぞれ14.4ポイント・27.2ポイント上がったとした。2つのベンチマークの名称は、発表文に書かれていない。

CS業務の実験では、「ELYZA Agent Tasks: Customer Service」を使い、失敗原因の分析から改善策の実装・再評価までのループを繰り返した。ELYZAの計測では、改善プロセスで使っていないテストデータでも、完遂率が34.3%から52.9%へ18.6ポイント上がったという。

精度とコストの両方を目的にした場合は、精度だけを目的にした場合と比べ、精度をほぼ維持したまま推論コストを67%削減できたとも説明した。

完遂率の定義やテストデータの件数は確認できなかった

10月3日時点で確認できた資料(発表文・PR TIMES版・GitHubのREADME・2つのモデルカード)に、完遂率の定義は見当たらなかった。READMEの指標名は「タスク遂行」で、「完遂率」と同じものかは確認できていない。

テストデータの件数・改善の対象にしたモデル・改善ループの回数も、同じ範囲で確認できなかった。「ほぼ維持」が精度の何ポイントの差を指すかについても、数値は見当たらない。

Voice Agentは検証段階、提供開始日と価格は記載なし

ELYZA Voice Agentは、電話やアプリからの問い合わせに応じる音声対話AIエージェントだ。利用者と対話しながら必要な情報を聞き取り、企業ごとのルールに沿って判断した上で、その後の手続きまで一連の流れで行うことを目指す。

予約の変更・契約内容の更新・申請の受け付けといった手続きを、業務システムと連携して処理結果の確認まで支援できるよう設計したという。

提供状況について、ELYZAは「現在、実現場への導入に向けた検証および機能の高度化を進めています」と説明した。提供開始日・価格・導入企業は、発表文とサービスページのどちらにも記載がない。

使う音声モデルが自社製か他社製かも、発表文とサービスページには書かれていない。AI Watchによると、ELYZAは評価機構を組み込み、利用の中でAIが自己採点して対応の品質を上げていく仕組みを説明し、製品化を進めるとした。

安全性について、発表文と記者会見で示した方針

ELYZAは発表文で、RSIに関する研究開発に伴う「想定外の挙動や技術の悪用リスク」を踏まえ、安全性を重要な研究課題の一つと位置付けた。安全性に配慮した研究環境や体制を整え、研究成果の適切な情報公開を通じて透明性を高めるとしている。

AI Watchによると、ELYZAは記者会見で、研究開発では隔離環境の作成やAIの停止を行えるシステムの作成を徹底すると答えた。製品の安全性については「使い方の問題であり、我々はまだそのレベルに到達していない」としつつ、セーフティガードに真摯に対応していくと述べたという。

Step.4は未到達、10月3日時点で確認できる3点

ELYZA自身の整理では、人が目的と制約を決めるだけで改善が回り続ける段階に、どの領域も達していない。この整理は、8月に当メディアが報じた業界の状況とも重なる。

完全な循環に人の関与が残る点は、8月の既報と重なる

当メディアは8月7日、AI開発を率いる経営者が「シンギュラリティ」を相次いで語っていると報じた。その記事では、業界はまだ完全な再帰的自己改善に至っていないとするAxiosの整理と、研究の目標は人間が与えているとするAnthropicの説明を伝えた。

ELYZAの図も、ハーネスの改善を「ほぼ全自動」としながら、Step.4の列はどの領域も空欄だ。一部の工程をAIが担うことと、人の関与から離れた循環が成り立つことを分けて示した点で、両者の整理は重なる。

2モデル・CSベンチマーク・Voice Agentの10月3日時点の状況

ELYZAの発表のうち、日本の企業が10月3日時点で確認できる事実は次の3点だ。

  • 2モデルはApache-2.0で取得できる:ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-33bと32b-a3bはHugging Faceで公開され、ベースのllm-jp-4も同じApache-2.0だ。性能の図はllm-jp-4系の公開モデルとの比較で、モデルカードの表には総合スコアが上回る他社系モデルも並ぶ。
  • CSベンチマークは手順書・ツール・応対記録まで分けて測る:「ELYZA Agent Tasks: Customer Service」はApache-2.0で公開され、自社のCS向けAIを評価するときの観点の比較材料になる。データの学習利用はELYZAが控えるよう求めているが、ライセンスへの追加制限はない。
  • Voice Agentは検証段階:ELYZA Voice Agentは実現場への導入に向けた検証中で、提供開始日・価格・導入企業は発表文とサービスページに記載がない。

※出典:ELYZA、「AIによるAI開発」の研究を推進する「ELYZA RSI Research」を設立。基盤モデル・評価・自律改善に関する研究成果を公開(ELYZA) / ELYZA、音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」を開発(ELYZA) / 音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」(ELYZA) / ELYZAとKDDIグループ、生成AIの社会実装に向け資本業務提携を締結(KDDI) / elyza/ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-33b(Hugging Face) / elyza/ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-32b-a3b(Hugging Face) / llm-jp/llm-jp-4-33b-base(Hugging Face) / llm-jp/llm-jp-4-32b-a3b-base(Hugging Face) / elyza-inc/elyza-agent-tasks-customer-service(GitHub) / Recursive Self-Improvement in AI: From Bounded Self-Refinement to Autonomous Research Loops(arXiv) / Apache License, Version 2.0(Apache Software Foundation) / ELYZA、「AIによるAI開発」の研究を推進する「ELYZA RSI Research」を設立。基盤モデル・評価・自律改善に関する研究成果を公開(PR TIMES) / ELYZA、音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」を開発(PR TIMES) / 再帰的自己改善でAIによるAI開発を目指す「ELYZA RSI Research」設立(AI Watch) / 国産AI「LLM-jp-4」ベースのAIモデル、KDDI傘下のELYZAが無料公開(ITmedia AI+)

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