OpenAI、Navier–Stokesの有限時間爆発を証明と発表――NYU教授が経緯を巡り声明

OpenAI、Navier–Stokesの有限時間爆発を証明と発表――NYU教授が経緯を巡り声明

※本記事は2026/09/09時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

OpenAIは9月8日、ミレニアム懸賞問題の一つであるナビエ–ストークス方程式(Navier–Stokes)の「存在と滑らかさ」の問題で、内部モデルが証明を生成したと発表した。公開されたのは166ページの証明と、Lean言語による形式化のリポジトリである。

発表は、公式のミレニアム懸賞問題の定式における主張「C」(および「D」)を成立させることで「Navier–Stokesミレニアム懸賞問題を解決する」と書いている。同じページには「この結果でミレニアム懸賞金を請求する意図はない」という一文も置かれた。

同じ8日の午後、ニューヨーク大学クーラント研究所のTristan Buckmaster教授らが、滑らかな強制項を伴う有限時間爆発の論文3本を公開した。共同研究者には、Anthropicに勤務する数学者のLevent Alpöge氏がいる。声明は雇用主の関与のない個人的な共同研究だと明記した。

あわせてBuckmaster教授は4ページの声明を出し、OpenAIとのやり取りを公表した。OpenAIは公式ページで両名を実名で挙げ、強制項付きEuler方程式に関する先取権を認めている。

OpenAIのSébastien Bubeck氏は翌9日未明(日本時間)に自身のXで、声明の一部を否定し、一部については謝罪した。双方の記述と食い違いを、公表された文面に沿って整理する。本記事の英語原文からの引用は、全て編集部訳による。

OpenAIが公表した証明とその範囲

発表の本文は5つの節からなり、著者表記は「OpenAI」で個人名の署名はない。

主張(C)と(D)を成立させたという記述

結果の節はこう書く。「私たちのシステムは、はじめ滑らかで静止している流体が有限時間で特異点を生じうるという解析的な証明とLean形式化を生成した」。この流体には滑らかな力が加えられ、エネルギーは有限のままだとも書かれた。

有限時間爆発(finite-time blowup)とは、流れの速さが有限の時間内に無限大まで大きくなることを指す。「滑らかな力」は強制項(forcing)で、以後は強制項付き(forced)・強制項なし(unforced)と呼び分ける。

証明PDFの定理1.1も同じ内容だ。任意の粘性 ν>0 に対し、滑らかでコンパクト台を持つ強制項の下で静止から出発し、有限時間で速度が非有界になる解を構成したとある。コンパクト台ゆえに周期版のT³でも同じ構成が得られ、(D)も成立すると書かれた。

1万体のエージェントと88時間という規模

証明を生み出したのは、GPT-6 Astraを大きく上回る能力を持つとされる内部モデルで、OpenAIの公式ページはモデル名を明らかにしていない。

着手のきっかけは噂だ。「9月1日(火)、私たちはミレニアム懸賞問題のうち2問が解かれたという噂を耳にした」。これに触発され、未解決の懸賞問題の全てでモデルを評価し始めたとしている。

証明に到達したグループはおよそ1万の同時稼働エージェントを擁し、最初の起動から約88時間後の9月5日(土)に到達。Leanでの形式化と検証にGPT-6 Astraでさらに17時間を要した。この問題だけで270万通のメッセージと約1,300億の出力トークンを消費している。

強制項ありとなしで異なるEulerの結果

OpenAIはEuler方程式でも結果を出した。ただし「解決したのは、流体に外力を加えない〈強制項なし〉の版だった」と明記され、約100体のエージェントが約50時間協働したとある。

一方、Buckmaster教授とAlpöge氏のEuler論文は強制項付きである。OpenAI自身も「Eulerの場合には証明された結果そのものが異なる(強制項ありか、なしか)」と書いており、両者の結果は別物だ。

Buckmaster氏らが同じ日に公開した3本の論文

声明の冒頭はこう始まる。「本日、Levent Alpögeと私は3つの結果を公開した」。対象は非圧縮多孔質媒体・Boussinesq・3次元非圧縮Eulerの3方程式で、いずれも滑らかな強制項を伴う有限時間爆発である。

ただし、声明が研究計画を「Levent Alpögeと私」と要約する一方、非圧縮多孔質媒体(IPM)の論文にはMatei P. Coiculescu氏も名を連ねる。

数年来の先行研究を土台にしたという説明

Buckmaster教授は構想の出どころを先行研究に帰した。「この仕事が収まるプログラムを始めたのは私たちではなく、大規模言語モデルが提案したものでもない」。基本的なアイデアの功績は、強制項付き爆発の構成を数年探ってきたDiego Córdoba氏とLuis Martínez-Zoroa氏にあるという記述だ。

使ったLLMも列挙された。AnthropicのClaude、OpenAIのCodex(とりわけGPT-5.6 Sol、より最近ではAstra)で、Astraは原稿の作成と論証の監査にのみ使ったとある。

声明によれば、Boussinesq方程式とEuler方程式の爆発結果を得たのは8月15日で、最初のLLM生成証明は8月22日にLeanで検証した。確認したOpenAI公式ページ本文ではCórdoba氏らへの言及を確認できないが、証明PDFの参考文献には両氏の論文3件が入る。

声明が記した9月3日からの経緯

声明によれば、9月3日にBuckmaster教授がOpenAIの数学者へメールを送り、6日にBubeck氏を交えて2度通話した。Alpöge氏は参加していない。

通話で伝えられた内容として、声明は「OpenAIの内部モデルが、強制項付きNavier–Stokes方程式の有限時間爆発の証明を生成したと聞かされた」と書く。教授は証明そのものを見ていない。

さらに声明は、2つの提案を受けて両方を断ったと記す。Bubeck氏がAlpöge氏を著者から外すよう2度求めたという記述もある。「なぜ自分のキャリアを台無しにするのか」という発言も、Buckmaster教授の陳述として書かれた。

教授自身が「主張していない」と断った範囲

声明には、自分が何を主張していないかを明示した段落がある。「私はOpenAIの証明を見ていない。彼らのモデルが何をどのようにしたのかを知らない。私たちのデータが使われたかどうかも知らない。私は誰かを何かで告発しているのではない。私は、自分が何を、いつ言われ、何を提案されたのかを述べている」

双方の陳述が食い違う5つの論点

争点はOpenAI公式ページ・Bubeck氏のX投稿・Buckmaster声明の3つに分かれて記された。Bubeck氏の投稿は個人アカウントのもので、公式声明ではない。

論点OpenAI側(公式ページ/Bubeck氏X)Buckmaster氏(声明)
着手の契機公式:9月1日に噂を聞いて着手/X:Anthropicが2問解いたという噂とAlpöge氏の投稿最終的に「情報が届いた後、ここ数日のうちに送られた」と合意された
人間の関与公式:Codexで各群の洞察を統合し誘導した/X:数学的内容には貢献できなかった「人間の入力はごくわずか」は事実でなく、チーム全体が取り組んでいた
データ利用公式:特定のユーザーデータへのアクセスは無い。非識別化データの寄与は排除できない訓練に使ったかを重ねて尋ねたが、答えは得られなかった
共著者の扱いX:自身の仕事の著者から外せと求めたことは一度もないAlpöge氏を著者から外したいと2度主張された
「career」発言X:極めて不適切な言葉選びで、その場で撤回し深く謝罪する「なぜ自分のキャリアを台無しにするのか」と言われた

データ利用についてOpenAIが書いた3つの文

公式ページの記述は3つの文からなる。まず「私たち(研究者とエージェント)は、彼らが公開するまで、いかなる手段によっても彼らの仕事を見ていない」。次に「とりわけ、この問題を解くために特定のユーザーデータにアクセスしたことはない」。

3つ目が留保にあたる。「可能性は低いものの、彼らが当社製品を利用したことに由来する非識別化データが当社モデルの改善に寄与した可能性を、排除することはできない」と書いた。

Buckmaster教授の側は、草稿を投入し続けたCodexのセッションを訓練に使ったのかと尋ねたが、答えを得られなかったと書く。データ利用の有無は双方の記述からは確定しない。

「人間の関与」が双方で指している中身

Bubeck氏はXで「流体力学の研究レベルの専門知識は誰も持たず、数学的内容に意味のある貢献はできなかった」と述べた。公式ページは、Codexで各群の洞察を統合し、解を見つけた群はそのように誘導されたと書く。

これに対しBuckmaster教授の記述は、チーム全体が関わり、見せられたプロンプト自体もCodexへのプロンプトで書かれ、常軌を逸した量の計算資源が使われたという内容だ。

Bubeck氏は数学的内容への寄与の有無を、Buckmaster教授は人員・プロンプト作成・計算資源を挙げており、両者は人間の関与を異なる角度から説明している。

Bubeck氏が否定した点と認めた点

Bubeck氏はXで、Alpöge氏を彼自身の仕事の著者から外せと求めたことは一度もないと否定した。「Anthropicの従業員でなければ簡単なのに」という発言は、Buckmaster教授がOpenAIのNavier–Stokes証明の書き直しの筆頭著者になる案を話した文脈だったと説明する。

キャリアに触れた発言は認め、「極めて不適切な言葉選びだった。深く謝罪する」「その場で撤回した」と書いた。

相手側のEuler証明にAnthropicの内部モデルが使われた、という記述もBubeck氏の主張として置かれた。Buckmaster声明は使ったLLMを「AnthropicのClaude」と記すにとどまり、内部モデルだったかは公表文から確定しない。

Terence Tao氏が書いた2つの文章

UCLAのTerence Tao氏は9月7日付のブログで、Alpöge氏とBuckmaster教授らの3本を解説し、Córdoba氏とMartínez-Zoroa氏の先行研究を土台にした仕事だと位置づけた。

ここでいう目標とは、Navier–Stokesで強制項付きの特異点を構成し、さらに強制項なしへ進むことを指す。Tao氏は「まだ完全には到達していないものの、近い将来にそれを完成させることが十分に見込めるだけの突破口を開いた」と評価した。

翌9日には、Mastodonへ4連投で研究環境への懸念を書いた。「良質で実りある未解決問題の蓄積は、いま再生不能なやり方で採掘されつつある」という書き出しである。

その上で「噂だけで、元の研究が成熟する前にそれをならすほどのAIの取り組みが引き起こされうる」と書いた。ただし、確認した4投稿の本文では、OpenAI・Buckmaster教授・Navier–Stokesを名指ししていない。

問題文が求める4つの主張と残る未確定点

Feffermanの公式問題文は「以下の4つの主張のうち1つの証明を求める」と書く。(A)(B)は解の存在と滑らかさを問うもので、強制項を恒等的にゼロと置く。

一方の(C)(D)は解の破綻を問うもので、条件を満たす滑らかな強制項 f(x,t) の存在を認める。OpenAIが成立させたと述べているのはこの2つだ。同じ問題文には、Euler方程式(ν=0)はClay研究所の懸賞問題の一覧に入っていないという但し書きもある。

OpenAIは公開の目的を、自社モデルの進展の報告に置く。確認したOpenAI公式ページとBuckmaster声明では、Clay研究所の授賞規則や査読状況への言及を確認できない。

確定していないのは、両者の時系列の突き合わせ、非識別化データが学習へ寄与したかどうか、そして共著者を巡るやり取りの実際である。

※出典:On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem(OpenAI) / Navier–Stokes証明PDF(OpenAI) / openai/NavierStokesAndEuler(GitHub) / Statement(Tristan Buckmaster・ニューヨーク大学) / Finite time blowup with smooth forcing term for the incompressible porous medium equation(Alpöge・Buckmaster・Coiculescu) / Finite time blowup with smooth forcing term for the Boussinesq equations(Alpöge・Buckmaster) / Finite time blowup with smooth forcing term for the 3D incompressible Euler equations(Alpöge・Buckmaster) / Sébastien Bubeck氏のX投稿(X) / Sébastien Bubeck氏のX投稿・技術的補足(X) / Existence and Smoothness of the Navier–Stokes Equation(Clay Mathematics Institute) / Finite time blowup with smooth forcing term…(What’s new・Terence Tao) / Terence Tao氏のMastodon投稿(Mathstodon)

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