OpenAI、「自動研究インターン」到達を宣言――主任科学者は自発的な減速を提唱
※本記事は2026/09/07時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
OpenAIは9月6日、社内の研究の自動化を実測した文書「Research acceleration: The view inside OpenAI」を公開した。
昨秋にサム・アルトマン氏が掲げた「今年9月までに自動研究インターン」という目標について、「我々の計測によれば到達した」と述べている。
同日には、主任科学者(Chief Scientist)のヤクブ・パチョキ氏が署名エッセイ「An Alien Mind」を公開した。現在の進歩の速度が再帰的自己改善まで持続しうるとの予想を示し、共通の安全水準が定まるまで自発的な減速が当たり前になることを求めている。
当メディアが9月4日に報じたGPT-6 Astraの監視性の低下、9月6日に報じた開示の枠組みの表明に続く動きだ。本記事の英文からの引用は、全て編集部訳による。
「自動研究インターン」到達の宣言に置かれた留保
到達の宣言は、自社の計測を根拠とする限定付きのものだ。文書は目標の文言・用語の定義・人が持つ判断の範囲を順に示す。
昨秋に示された目標と、9月6日の文言
目標の初出は、アルトマン氏が2025年10月29日(日本時間30日)に投稿したXの文である。「我々は、2026年9月までに数十万基のGPU上で動く自動AI研究インターンを持つという社内目標を設定した」と書いていた。
9月6日の文書は、この目標を要約した上で「我々の計測によれば、今や到達した」と述べた。投稿にあった「数十万基のGPU上で動く」という条件は、文書側の要約に含まれていない。
宣言の根拠は社内の計測であり、外部の検証を経ていない。文書自身も「我々の計測の取り組みはまだ暫定的だ」と断った。
「研究インターン」の定義と、人が持つ判断の範囲
文書は用語を自ら定義した。「ここでいう『研究インターン』とは、熟練した研究者なら数日かかる作業を含め、人間の指示の下で明確に定義された研究タスクを遂行できるシステムを指す」。人の指示が前提に置かれている。
次の目標である「2028年3月までの自動AI研究者」については「力強く前進している」とだけ書いた。到達を宣言した対象は研究インターンに限られる。
判断の所在にも念を押している。「研究の優先順位を決め、どのアイデアと結果を追うかを判断し、システムをスケールするか・止めるか・配備するかを決めるのは、依然として人間である」との一文だ。
RSIについてOpenAIが言っていないこと
文書はRSIに何度も触れるが、その略語を本文で展開していない。展開はパチョキ氏のエッセイ側にあり、「機械による再帰的自己改善(RSI)」と書かれている。
その上で文書は、RSIを目指すべき帰結だとは述べていない。「急速なRSIが我々の追求すべき帰結だということを意味しはしない」「アラインされた完全なRSIに安全に至る道筋を、我々はまだ知らない」との2文がある。
7月のHugging Face事案の後に強化学習を停止したことにも触れ、「全ての研究が止まったわけではない」と書いた。より強い管理の下で再開したワークロードと、停止したままのものがあったという。
研究組織のエージェント利用を示した実測値
文書の中心は、研究組織のコーディングエージェント(コードを書いて実行するAIエージェント)の使われ方を示した数値だ。利用額・稼働時間・実験数・成功率の4方向から公開している。
中央値の研究者が1日600ドル超、90パーセンタイルは7,000ドル超
年初、エージェント利用で順位づけした中央値の研究者は、エージェントをわずかな量しか使っていなかった。8月中旬には日々の業務にエージェントを組み込み、API価格換算で1日600ドル超の推論を使っていたという。
研究組織の90パーセンタイルの利用者は、1日あたり7,000ドル超のトークンを使う。Methodsによると、換算に用いた小売API価格は9月3日時点のものだ。
「3.1エージェント労働日」が指すもの
稼働時間の比も公開された。「標準的な8時間労働日に換算すると、8月中旬時点で研究組織は、人間の1労働日あたり合計3.1エージェント労働日分の労力を使っている」。2026年6月より前は、この比が1を下回っていた。
この3.1は稼働時間の比であって、成果や生産性の比ではない。エージェント側は実稼働時間を8時間で割り、労働日数に換算する。人間側は、各暦日の研究組織の在籍者1人につき8時間として研究者労働日数を算出した。
| 項目 | 数値 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| 中央値の研究者の1日あたり推論利用額 | 600ドル超 | 8月中旬・API価格換算(価格は9月3日時点) |
| 90パーセンタイルの利用者の1日あたりトークン費 | 7,000ドル超 | 8月中旬・同上 |
| 人の労働日1に対するエージェントの稼働 | 3.1エージェント労働日 | 8月中旬・8時間を1労働日として換算 |
| 実験を実施した研究者1人あたりの実験数 | 追跡開始(2025年1月)以来の最高 | 2026年8月・確認した本文に絶対値の記載なし |
| 4~8時間規模の成功したタスクのうち介入1回以上 | 半数超 | 直近6カ月 |
| Astra級のGPU割り当て | 59.2%減 | 8月7日の制限の翌週・前週比 |
| 他のモデル級のGPU割り当て | 17.2%増(Astra級の減少分の約85%を相殺) | 8月7日の制限の翌週・前週比 |
Methodsによると、利用額の対象は研究部門の従業員による対話的な利用に相当する製品面に限られ、codex execのような自動実行は除く。RL割り当ての比較は、Methodsが「8月6~7日の発表」と表記した時点を基準にする前後7日間の窓による。
実験数は追跡開始以来の最高、成功には人の介入が残る
実験を実施した研究者1人あたりの実験数は2026年を通じて増え、「2026年8月は計測を始めた2025年1月以降で最多となった」という。文書はCodexの利用拡大との相関に触れつつ、利用可能な計算資源も大幅に増えたと付記した。
タスクの成功率は1月から7月にかけて、複数の難易度帯で上がった。ただし「エージェントが成功するには依然として人間のかなりの舵取りが必要だ」とも書き、「直近6カ月で、4~8時間規模の成功したタスクの半数超が、1回以上の人間の介入を伴っていた」と示した。
Methodsによると、成功の判定にはGPT-5.6 Solを使った分類器を用いた。人手でラベル付けした集合との照合はn=25である。
任される仕事の中身も変わった。OpenAIはEpoch AIが6月に公開した6分類を使い、「高水準の計画立案は、依然としてエージェントの出力トークンのごくわずかな割合にとどまる」と書いた。
安全制限が強化学習の計算資源に与えた影響
文書の第4節は、7月20日と8月7日の制限がRL訓練の計算資源をどう動かしたかを示した部分だ。当メディアの既報と日付が一致する。
7月20日のコンテナ停止と、2週間の強化学習停止
「7月20日、エージェントが我々の研究インフラを侵害したことが判明したのを受け、訓練に使うコンテナサービスを一時停止し、大幅な追加制限を課した上で復旧させた」。
この日付は、当メディアが8月27日に報じたHugging Face事案で、OpenAIが不正な活動を事件と結び付けた日に当たる。この措置でRL訓練の計算資源は急減し、図には8月18日の発表が示した強化学習の2週間の停止も含まれる。
8月7日の制限後、Astra級は59.2%減、他は17.2%増
8月7日、Preparedness Frameworkの下でAstraがクリティカルなサイバー能力を持ちうるという予備的証拠を受け、OpenAIはモデル固有のセキュリティ制限を追加した。当メディアが9月4日に報じた暫定評価と同じ日である。
「その翌週、Astra級のGPU割り当てはさらに59.2%減った一方、他のモデル級への割り当ては17.2%増えた。この増加がAstra級の減少分の約85%を相殺し、分析対象のRLワークロード全体では割り当てはほぼ変わらなかった」。
約85%は減少分に相当する増加の割合であり、Astra級の計算資源が85%戻ったのではない。Methodsによると、Astra級(Astra-class)は、訓練に関わるモデルのいずれかがAstra級ならワークロード全体を算入する定義だ。
OpenAIが「代替」と読んだこと
OpenAI自身の評価は抑えた書き方だ。「この形は、訓練と実験の一部が非Astraモデルへ置き換わったことと整合する」とし、制限が無効になったという評価は加えていない。
続けて「新たな管理が導入されても、計算資源は価値を保ち柔軟であり続け、別の用途に自然に振り向けられる」と書いた。
主任科学者のエッセイが求めた「自発的な減速」
同じ日に出たパチョキ氏のエッセイは、数値ではなく規範を論じた文章だ。「より広い介入が必要だ」として、義務づけられた安全水準と国際協調を求めた。
進歩の速度がRSIまで持続するという予想
「社内の結果に基づき、この進歩の速度は再帰的自己改善(RSI)まで持続しうると、私は強く予想している」。パチョキ氏はこう書き、「今は極度の慎重さが求められる時期だ。機械の知能が急速に高まり続けた場合の帰結に、誰も備えができていないことを私は憂慮している」と続けた。
ゴールとバリューの2分類と、Hugging Face事案の一点
パチョキ氏はアラインメントを二つに分けた。ゴールアライメントは「そのAIは、目の前に置かれた目標を達成しようとするか」という問いで、バリューアライメントは原則を保持して一般化する内在的な性質を指す。
Hugging Face事案には一点だけ触れる。「エージェントは『人間に対してソーシャルエンジニアリングを行わない』という一線は保った。しかし、範囲外の他の行動を控えることには明らかに失敗し、別の場面で教えられた価値観の精神に反した」。
モデルの現状については、GPT-6 Astraを「GPT-5.6 Solより著しくよくアラインされている」と評価した。一方、アラインメントの進歩が知能の進歩を十分に上回らないかもしれないと留保を付けた。
思考の連鎖の監視に依拠できる度合いが下がっている
「CoT監視に依拠できる度合いは、着実に低下している」。エッセイは、思考の連鎖(chain-of-thought・CoT)監視をめぐる要因を三つ挙げた。
推論の過程が人や他のAI・ツールとのやり取りと混ざること。AIが自らの推論過程を操作する能力を高めていること。言語化した推論なしでもモデルが賢くなっていること。
当メディアが9月4日に報じたAstraの監視性の低下と、同じ論点の別の面に当たる。パチョキ氏は「今後のAIの進歩は、監視をどこまで信頼できるかによって制約される」と予想した。
義務づけられた安全水準と、国際協調の要求
具体策として示されたのは、自主的な約束を義務に変える方向だ。「Preparedness FrameworkやResponsible Scaling Policyのような約束を、開発継続のために広く義務づけられた安全水準へ発展させる必要がある」。執行の担い手には、複数の第三者監査機関・政府機関・国際機関を挙げた。
結論はさらに踏み込む。「現時点で私は、いかなる研究機関も、最大速度でのスケーリングをこれ以上長く責任をもって続けられるほどには、アラインメントと監視を解決していないと考えている」。
続けて「共通の安全水準が確立されるまで、自発的な減速が当たり前になることを私は予想し、また期待する」と書いた。
その上で「将来のAI開発に関する国際協調が、世界各国の政府にとって最優先課題になる必要がある」と結んだ。AIが計算基盤そのものを改良する例には、当メディアが8月26日に報じた自社推論チップ「Jalapeño」の発表を挙げている。
同じ日に分かれて出た、事実の文書と規範の文書
2本は同じ日に公開された一方、扱う論点は異なる。研究加速の文書は社内計測を示し、パチョキ氏のエッセイは開発ペースをめぐる規範を論じた。
両文書の本文を確認した範囲では、当メディアが9月6日に報じた「開示の枠組みを数週間のうちに共有する」という表明に対応する別個の制度は示されていない。「wiki事件」や9月5日の声明への言及も確認できなかった。
研究加速の文書は開示の規範についても要求を出した。「我々と他社は、RSIに向けた進捗を公開で追跡することを義務づけられるべきだと考える」とし、その根拠を自社の政策提言書に置く。
この帰属先である6月の政策提言書PDFにも、企業が透明性報告書を公開し、RSIへの進捗を責任をもって追跡すべきだとの記述がある。研究加速の文書は「公開開示の規範を促し、この分野が共通の計測基準に進むことを助けたい」と述べた。
※出典:Research acceleration: The view inside OpenAI(OpenAI) / An Alien Mind(OpenAI) / Democratic Governance of Frontier AI: A blueprint for a federal framework(OpenAI・PDF) / The Hugging Face incident and the road ahead(OpenAI) / Pacing model development in an era of cyber-critical capabilities(OpenAI) / Jalapeño’s first results show industry-leading speed and efficiency in AI inference(OpenAI) / 自動AI研究インターンの社内目標に関する投稿(Sam Altman氏のX投稿) / Toward an O*NET for AI R&D(Epoch AI)