Google、Gemini 3.8 Flashと3.8 Flash Cyberを発表――Cyber版は防御側に限定提供
※本記事は2026/09/03時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
Googleは9月2日(現地時間)、新しいモデル「Gemini 3.8 Flash」と「Gemini 3.8 Flash Cyber」を発表した。二つは同じ基盤的知能で動く一方、提供先は大きく違う。
3.8 Flashは主力モデルとして、発表と同日からGemini API・Gemini Enterprise・Geminiアプリ(AI Pro・Ultra加入者向け)で利用できる。価格は3.7 Flashの導入価格と同額に据え置かれた。
一方の3.8 Flash Cyberは、緩和策がより緩やかなため、同日に発足した「Fairwind Program(フェアウィンド・プログラム)」を通じて信頼できる防御側にだけ提供される。参加パートナーは650組織超。本記事の英文からの引用は、全て編集部訳による。
同じ基盤のモデルを緩和策の強さで二つに分けた
Googleの説明で二つのモデルを分けているのは、基盤の違いではなく、悪用を防ぐために掛けた緩和策の強さだ。Googleは3.8 Flashを一般の開発者・企業・個人に開き、3.8 Flash Cyberは信頼できる防御側にだけ渡す形をとった。
展開先が違っても中身は同じ基盤的知能
発表本文は両者の関係を「展開環境こそ違うが、本日の二つのリリースは同じ基盤的知能で動いており、基礎モデルを再帰的に評価・改良する長時間のエージェントループでさらに加速されている」と説明した。
共有する中核が伸びた理由として、Googleは複数の工夫を挙げ、その一つに「極めて要求の厳しいサイバーセキュリティ領域での厳密な訓練」を含めた。サイバー領域の訓練が、一般向けモデルの推論とコーディングも押し上げた形だ。
Googleは3.8 Flashを「最も賢い主力(ワークホース)モデル」と位置づける。7月に発表した3.6 Flashも「ワークホースモデル」と呼んでいた。
Cyber版の違いは基盤ではなく緩和策の範囲
3.8 Flashには、Frontier Safety Framework(フロンティア安全枠組み)に沿って、化学・生物・放射性物質・核(CBRN)とサイバー攻撃の悪用に対する安全装置が掛かる。
3.8 Flash Cyberについて発表本文は「サイバーセキュリティ向けにより緩やかな緩和策(mitigations)を備えており、そのため、より包括的なサイバー能力を必要とする信頼できる防御側にのみ提供される」と書いた。
Googleの説明を読む限り、二つを隔てているのは基盤の性能ではなく、緩和策をどこまで緩めるかの差である。Googleは「当初から脆弱性の修正に投資し、エクスプロイトのような攻撃的能力より優先してきた」とも書いた。
提供先を絞る理由は防御側の「適応の猶予」
Fairwind Programの発表は、提供先を限る理由を防御側の準備時間として示した。原文は「早期アクセスの提供は、悪意ある者が新しい能力を悪用する前に、信頼できる防御側が自らのシステムを堅牢にするための重要な適応の猶予を与える」と書いている。
同じ発表は、防御側が抱えてきたジレンマも挙げた。巨大なフロンティアモデルは導入費用が高くなりうる上に、企業のコードベース全体では制御が難しい。小さなオープンウェイトモデルは複雑な脆弱性の修正に苦戦しかねず、ツールと基盤を自前で用意する必要があった。
Gemini 3.8 Flashの性能と「より働く」設計
3.8 Flashの比較対象は、3週間前に出た3.7 Flashだ。Googleは「3週間前の3.7 Flashの勢いを受け、わずか6週間で3度目のFlashリリースとなる今日、Gemini 3.8を発表する」と書き、速度と低コストは3.7のままだと説明した。
3.8 Flashで数値が示されたのはHLE-Verifiedだけ
3.8 Flashについて発表本文が数値で示したベンチマークは、HLE-Verifiedの54.9%だけである。Googleはこのスコアを、STEM・人文・専門分野にまたがる多段推論の能力を示すものだと説明した。
ほかに名前が挙がったのは、長期のソフトウェア工学を測るDeepSWE v1.1・金融のVals Finance Agent V2・法務のHarvey’s Legal Agent Benchmarkの三つだ。
DeepSWE v1.1では「より大きなフロンティアモデルの多くを、ごく一部のコストで上回る」とし、残る二つでは3.7 Flashと他のフロンティアモデルを上回るとした。ただしいずれも図で示され、数値は発表本文にない。
独立評価でも出力トークンの増加が計測された
性能の伸びについてGoogleは「これらの性能向上は中核的な設計上の選択から来ている。3.8 Flashはより働く」と書いた。複雑なタスクでは推論の手順を増やし、ツールを繰り返し呼び出す。
その代わり「特に高いeffortレベルでは、性能を最大化するためにより多くのトークンを使うことがある」とも明記した。計算効率を優先する用途には、低いeffortレベルの利用と、「引き続き完全にサポートされる」3.7 Flashの継続利用を挙げた。
独立評価機関のArtificial Analysisも、同じ9月2日に独自の計測結果を公開した。高い推論設定でのIntelligence Indexは59で、3.7 Flash(高設定)の56から3ポイント上がっている。
1タスクあたりのコストは0.58ドルで、3.7 Flashの0.40ドルから約40%高い。1タスクの平均出力トークンが30%増えて4万8,000になり、エージェント評価でのターン数も増えたためだと同社は説明する。
価格は3.7 Flash据え置き、ただし期限付き
3.8 Flashの価格は、3.7 Flashの導入価格と同額に据え置かれた。ただしこの導入価格には期限があり、脚注に終了日と次の単価が書かれている。
導入価格は年末で終わり、翌年から倍になる
導入価格の100万入力トークンあたり0.75ドル・100万出力トークンあたり3.75ドルは、3.7 Flashと同額である。Google AI for Developersの資料は、3.7 Flashと3.6 Flashにも2026年12月31日まで導入価格を適用すると記した。
脚注1は「導入価格は2026年12月31日で終了する。2027年1月1日から100万入力トークン1.50ドル・100万出力トークン7.50ドルが適用される」と定めた。
| 適用時期 | 100万入力トークン | 100万出力トークン |
|---|---|---|
| 導入価格(2026年12月31日まで) | 0.75ドル | 3.75ドル |
| 2027年1月1日以降 | 1.50ドル | 7.50ドル |
| 参考: 7月発表の3.6 Flash | 1.50ドル | 7.50ドル |
3.8 Flash Cyberの料金は、Geminiの発表本文にもFairwind Programの発表にも記載がない。表のうち3.8 Flashの2行はGoogleの発表による。3.6 Flashの行はGoogleが7月21日(現地時間)に発表した価格で、2027年からの単価はこの水準に戻る。
開発者・企業・個人の三系統で同日から使える
開発者向けはGoogle Antigravity・Gemini API(Google AI Studio)・Android Studio・Stitchの四つで、モデル文字列は、Google AI Studioへの公式リンクに含まれる gemini-3.8-flash だ。
企業向けはGemini Enterprise、個人向けはGoogle AI ProとUltraの加入者に対するGeminiアプリ・Google検索のAIモード・Google SheetsのGeminiだ。
3.8 Flash Cyberだけは、Fairwind Program経由に限られる。発表本文にはプレビューか一般提供かの区別を示す言葉がないが、Google AI for Developersの資料は3.8 Flashを一般提供(GA)と明記している。提供地域を限る記述は発表本文に見当たらない。
3.8 Flash CyberとFairwind Programの中身
3.8 Flash Cyberは、脆弱性の発見と自動パッチ適用に振った構成だ。Googleは自社の評価と外部ベンチマーク、そして社内での適用結果を並べて示した。
社内ベンチの成功率70%超と外部ベンチの47.2%
脆弱性発見の業界標準ベンチマークとされるCyberGymについて、Googleは3.8 Flash Cyberが3.5 Flash Cyberと「はるかに大きいフロンティアモデル」の両方を上回ったと説明した。スコアは図で示され、数値は本文にない。
C/C++に限らない評価として、20のプログラミング言語にまたがるコードベースで、脆弱性を発見させる社内ベンチマークも実施した。ここでの成功率は70%超だとしている。
自動パッチの評価には、Collinearが運営する外部ベンチマークのCWE-Benchを使った。3.8 Flash Cyberのpass@1は47.2%で、首位のフロンティアモデルの47.8%に対し、コストは大幅に低いと説明した。
Geminiの発表本文では比較対象の製品名は書かれていないが、Google DeepMindのFairwind ProgramページはAnthropicのClaude Fable 5と明記している。
社内適用ではChromeのパッチが2.6倍
Googleは既に、社内のコードを守る用途で3.8 Flash Cyberを使っている。Chrome Securityチームの評価では、Chromeの脆弱性に対して「はるかに大きい最良の商用モデル」より2.6倍多く正しいパッチを生成した。
Wizは、自社のペネトレーションテスト用ベンチマークで、他の主要なフロンティアモデルに対する再現率の改善幅を+7.5~9.7%とし、コストは2.3~5.2分の1になったとしている。Googleのクラウド脆弱性研究チームは、通常なら数カ月かかる重大な基盤的脆弱性を2時間未満で見つけた。
Fairwindの参加条件と運用基準
Fairwind Programの対象は、信頼できるGoogle Cloud顧客・政府機関・サイバーセキュリティパートナーである。初期のアクセスは、政府と国家サイバー当局・重要インフラ事業者・中核技術プラットフォームの三区分に段階的に開かれる。重要インフラには医療・通信・エネルギー・金融が挙がった。
参加組織は厳格な運用基準に合意する。原文は「社内のサイバーセキュリティ・インシデント対応・ペネトレーションテストの各チームの従業員にアクセスを限定することや、多要素認証といった保護を導入することを含む」と書いた。参加パートナーは650組織超で、発表は一部の名称をロゴで示している。
CodeMenderと組ませ数分でパッチを生成する
Fairwindのパートナーは、3.8 Flash Cyberを単体で使うことも、Google CloudのCodeMenderハーネスと組み合わせて脆弱性の発見・検証・修正をエージェント規模で回すこともできる。
原文は「手作業で脆弱性を直すのに数週間かかっていたところ、検証済みで展開可能なパッチを数分で、組織の安全なクラウド環境内で生成できる」と書いた。
Fairwindに参加していないGoogle Cloud顧客も、Gemini Enterprise Agent Platform上の公開モデルとCodeMenderを組み合わせて使える。Googleは、AI Threat Defenseで提供する製品との併用も挙げた。
あわせてGoogleは、Google.orgを通じたサイバーセキュリティ関連の資金が世界で累計1億ドルを超えたと発表した。米国では35のサイバークリニックに3,600万ドルを拠出している。
7月の予告から正式化へ、他社も防御側限定の線引き
当メディアは7月22日、Googleが7月21日(現地時間)に発表したGemini 3.6 Flash・3.5 Flash-Lite・3.5 Flash Cyberの3モデルを報じた。当時の3.5 Flash Cyberは、近日中に政府機関と信頼できる提携先に限定提供する予定という段階にあった。
提供・版数・価格・評価の四つが動いた
提供の形が大きく変わった。7月は、限定アクセスのパイロットとして近日中に提供する予定にとどまっていたが、今回は正式に発足し、参加パートナー650組織超と運用基準まで公表された。
Cyber版の名称は7月の3.5 Flash Cyberから3.8 Flash Cyberに変わった。今回の発表本文も比較対象を3.5 Flash Cyberとしており、3.6と3.7のCyber版には触れていない。
主力Flashの価格は、7月の3.6 Flashが入力1.50ドル・出力7.50ドルで、今回の導入価格はその半額に当たる。評価は7月のBig SleepやV8を対象とした自社評価中心から、CollinearのCWE-BenchとWizの社内ベンチが加わる形に動いた。
同じ週に他の二社も防御側限定の枠組みを示した
Anthropicは9月1日(現地時間)、Claude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1を発表した。二つは同じモデルで、違いは安全装置(セーフガード)の水準だ。Mythos 5.1は審査を通った利用者向けで、現時点では米国内の一部組織にのみ提供される。
OpenAIは9月1日、新モデル「Astra」を自社のPreparedness Frameworkで初めてCritical(サイバー能力)に指定した。開発と公開の一部を遅らせ、高度なサイバー機能の利用は当初、少数のアルファテスターに絞ると説明している。
日本ではNECがProject Glasswingに参画した
Anthropicが4月7日に発表したProject Glasswingは、Googleを含む12のローンチパートナーと40を超える追加組織に未公開モデル「Claude Mythos Preview」を提供する枠組みで、Googleもローンチパートナーの一つに名を連ねる。
NECは9月2日、このProject Glasswingへの参画を発表した。自社を「クライアントゼロ」としてMythos Previewをソフトウェア開発・システム運用・脆弱性管理に適用し、効果・安全性・運用ルールを検証する。適用規模や開始時期の数値は、NECの発表では確認できない。
Mythos Previewは一般提供の計画がない未公開モデルで、当メディアが9月2日に報じたMythos 5.1とは別のモデルである。今回の一連の発表は、モデルの能力だけでなく、誰に渡すかという提供範囲にも線を引いた。
※出典:Introducing Gemini 3.8 Flash and 3.8 Flash Cyber(Google) / Google’s Fairwind Program: Cyber defense tools for trusted partners(Google) / Fairwind Program(Google DeepMind) / What’s new in Gemini 3.8 Flash(Google AI for Developers) / Introducing Gemini 3.6 Flash, 3.5 Flash-Lite, and 3.5 Flash Cyber(Google) / Google has released Gemini 3.8 Flash, its fourth Flash model in under four months(Artificial Analysis) / Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1(Anthropic) / Project Glasswing: Securing critical software for the AI era(Anthropic) / NECとAnthropic、フロンティアAIを活用したサイバーセキュリティ強化で協業を加速(NEC) / Path to Astra: critical capabilities and frontier safeguards(OpenAI)