Anthropic、Claude Fable 5.1とMythos 5.1を発表――同一モデルを安全装置の水準で2製品に

Anthropic、Claude Fable 5.1とMythos 5.1を発表――同一モデルを安全装置の水準で2製品に

※本記事は2026/09/02時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

Anthropicは9月1日(現地時間)、新しいモデル「Claude Fable 5.1」と「Claude Mythos 5.1」を発表した。両者は同一のモデル重みを共有する同じモデルであり、違いは安全装置(セーフガード、safeguards)の水準だけである。

Fable 5.1は発表と同日に、Claude API・Amazon Web Services・Google Cloud・Microsoft Azureで一般提供が始まった。Mythos 5.1はサイバーセキュリティと生命科学の審査を通った利用者向けで、現時点では米国内の一部組織にのみ提供される。

あわせて公表されたのは、キャッシュ読み取り単価の75%引き下げ・サイバー安全装置の精密化・企業向けのEnterprise Frontier Safeguards(EFS)・EU AI Actに対応した電子透かしと検出APIだ。

価格の引き下げにより、典型的な作業では推定25%のコスト減になるとAnthropicは説明している。本記事の英文からの引用は、全て編集部訳による。

同一のモデルを安全装置の水準で2製品に分けた

今回の発表で最初に押さえるべきなのは、Fable 5.1とMythos 5.1が別々のモデルではないという点だ。2つを分けているのは能力ではなく、掛かっている制限の強さである。

Anthropicは両者を「コーディングと知識労働において世界で最も高度なモデル」と説明している。これは同社自身による位置づけであり、第三者機関の評価ではない。

「同じモデルで、違うのは安全装置の水準だけ」

発表本文は両者の関係を「Claude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1は同じモデルであり、違うのは安全装置の水準だけである」と説明した。システムカードはさらに踏み込み、2つを「同一のモデル重みを共有する、Anthropicの新しい大規模言語モデルの2つの構成」と記している。

したがってMythos 5.1は上位版でも高性能版でもない。Fable 5.1に掛かっている生物学とサイバーセキュリティの制限を、審査を通った個人・組織に対して緩めた構成であり、原文の表現では「より緩やかな安全装置を提供する」となる。

Fable 5.1は発表と同日に、全てのプラットフォームで利用できるようになった。モデルIDは claude-fable-5-1 で、システムカードは両モデルの知識のカットオフを2026年6月と記している。

Mythos 5.1が使えるのは審査を通った米国内の組織だけ

発表本文は「現時点では一部の米国内組織にのみ提供されている」と書き、国内外のより広いパートナーに広げるべく米国政府と調整していると述べた。

入り口となるプログラムは2つある。サイバー防御側のCyber Verification Program(CVP)と、生命科学側のLife Sciences Verification Program(LSVP)だ。

ただし2つのプログラムの状態は同じではない。CVPは現在、Opusクラス・Sonnetクラスのモデルをサイバー面の安全装置を緩めた形で提供しており、Mythosクラスの提供は「近い将来」と書かれた段階にとどまる。

LSVPのほうは米国政府と組み、「最初の参加者が登録済み」だとしている。このほか、コードベースを走査して脆弱性を見つけ、人のレビュー向けに修正案を出す製品「Claude Security」も、Mythos 5.1で動くようになった。

日本への言及として確認できたのは楽天のコメント

日本からFable 5.1を使えるかについて、発表本文で確認できるのは「本日から全てのプラットフォームで利用できる」という一文である。確認した発表本文の範囲では、Fable 5.1の提供地域を限定する記述や、日本語での応答品質・国内の販売体制への言及はない。

日本に関係する記述として確認できたのは、早期アクセス先22社のコメントに含まれる楽天のものだ。同社のPrincipal AI Engineer、Felix Giovanni Virgo氏は次のように述べている。

「他の3つのフロンティアモデルが承認した楽天メディカルの臨床研究プロジェクトのレビューを、Claude Fable 5.1に依頼した。どのモデルも見落としていたギャップを見つけ、さらに検証すべきだと主張した。その後まったく新しい仮説を提案し、諦めかけていたデータセットを、一つの午後で新しい研究の方向に変えた」

ベンチマークの数値と、そこに付いた測定条件

Anthropicは7種のベンチマークで、Fable 5.1・Fable 5・Claude Opus 5・GPT-5.6 Solを比べた表を公開した。数値は全て同社自身の測定であり、いくつかの指標には測定条件の注記が付く。ここでは主要な5指標を抜き出し、注記とあわせて確認する。

科学研究と業務ワークフローの指標が大きく伸びた

前世代のFable 5から最も大きく動いたのは、科学研究とビジネス業務の2分野だ。科学研究を測るTerminal-Bench-Science 0.1は24.7%から52.6%となり、2倍以上に伸びた。業務ワークフローを測るAutomationBenchは17.1%から31.4%となり、ほぼ1.8倍になった。

ベンチマークFable 5.1Fable 5Opus 5GPT-5.6 Sol
Terminal-Bench-Science 0.1(科学研究)52.6%24.7%29.0%22.4%
Terminal-Bench 4.0(ターミナル操作のコーディング)55.8%42.0%52.3%37.3%
GDPval-AA v2(知識労働)1853172318241711
AutomationBench(業務ワークフロー)31.4%17.1%26.9%19.6%
CursorBench 3.2.0(コーディング)73.4%70.5%70.0%67.2%

注1: 表のFable 5.1とFable 5は、本番の安全装置を有効にした状態で測定されている。安全装置が介入したタスクは0点として集計され、AutomationBenchのFable 5のスコアには0点になったタスクが含まれる。Anthropicは、これがスコアを押し下げている可能性が高いと注記した。

注2: 表の数値は全てAnthropic自身の測定による。Terminal-Bench-Science 0.1の標準誤差はモデルあたり±3.5~4.5ポイントで、公開リーダーボードのOpus 5は30.0%・Fable 5は21.4%、同社の環境での再現値は29.0%と24.7%だとしている。

コーディング系の伸びは科学研究より小さい

コーディング系の伸びは、科学研究とビジネス業務に比べると小さい。Terminal-Bench 4.0は42.0%から55.8%で13.8ポイント、CursorBench 3.2.0は70.5%から73.4%で2.9ポイントの差にとどまる。

知識労働を測るGDPval-AA v2は1723から1853になったが、点数の意味づけは原文に説明されていない。比較対象のうちClaude Opus 5はAnthropicの上位モデル、GPT-5.6 SolはOpenAIのモデルだ。

5指標のいずれもFable 5.1が最も高い一方、Terminal-Bench 4.0とGDPval-AA v2ではOpus 5との差が3.5ポイント・29ポイントと小さい。

数値は安全装置を有効にしたまま測定されている

表を読む上で外せないのが、Anthropic自身が付けた測定条件の注記だ。Fable 5.1とFable 5は本番の安全装置を有効にした状態で評価されており、安全装置が介入したタスクは0点として集計されている。

具体的には、OSWorld 2.0でFable 5.1とFable 5が、AutomationBenchでFable 5が0点になったタスクがある。介入が起きたとき、サイバーセキュリティのタスクはClaude Opus 4.8が、生物学のタスクはClaude Opus 5が代わりに処理した。

Anthropicはこの条件について「これはFable 5.1とFable 5のこれらのベンチマークでの性能を下げている可能性が高い」と書いている。この測定条件は、各社の数値を比較する際の留意点となる。

Mythos 5.1が上回る唯一の数値に付いた注記

表の中で一カ所だけ、Mythos 5.1の数値が併記されている。Terminal-Bench 4.0でMythos 5.1が60.9%、Fable 5.1が55.8%となり、Mythos 5.1が5.1ポイント上回る。

ただしAnthropicは、この差を能力の差として扱っていない。原文は「Claude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1は同じ基盤モデルであり、両者の差は、以前の精度の粗いサイバー安全装置が介入したタスクを反映したものだ」と説明した。

続けて「本日行う安全装置の改善によって、両モデルの差はずっと小さくなると見込んでいる」とも書いている。

価格・データ保持・安全装置への3つの応答

発表本文は、価格・データ保持・安全装置の3点について顧客からの要望に応えたと位置づけている。いずれも読者が同日から影響を受ける部分であり、ベンチマークの数値より実務に近い。

キャッシュ読み取りが75%下がり0.25ドルに

引き下げられたのはキャッシュ読み取りの単価だけだ。既に処理して保存した入力をモデルが読み直す部分の価格が75%下がり、100万トークンあたり0.25ドルになった。入力100万トークンあたり10ドル・出力100万トークンあたり50ドルという単価は、Fable 5と同じで据え置かれている。

Anthropicは、この変更によって典型的な作業ではFable 5に比べて費用が推定25%減り、複雑なコーディングやエージェント色の強い作業では最大でおよそ45%減ると説明した。25%と45%は、実利用の記録に新価格を当てはめた同社の試算である。

試算の条件はグラフの注記にあり、8月の実利用4週間分を既定のeffort(推論にかける労力の水準)設定で測った。

早期アクセス先の開発支援企業Cognitionはこの値下げに触れ、これまでOpusに残していた作業でもFableクラスのモデルが経済的に見合うとして、自社の製品DevinでのOpus 5のトラフィックを公開初日にFable 5.1に移すと述べた。

EFSは顧客が管理するクラウドにデータを置く

Enterprise Frontier Safeguards(EFS)は、ゼロデータ保持(ZDR)と同じ秘匿性を保ちながら不正利用の検知も続ける仕組みだ。

監視に使う活動データは、Anthropicのシステムではなく顧客自身のクラウドに保存される。Amazon S3・Azure Blob Storage・Google Cloud Storageが保存先として挙がっている。

検知した兆候は顧客に直接送られ、人によるレビューも既定では顧客自身が行う。レビュー担当者を厳しく限定する規制業種の事情に合わせ、Anthropicの従業員によるレビューを不要にした。

EFSは金融・医療・製造・通信・法務・小売・公共部門の100社超と、Amazon Web Services・Google Cloud・Microsoft Azureの3社と共同で設計された。展開は今秋の後半から段階的に始まり、それまで対象顧客はFable 5とFable 5.1をゼロデータ保持で使える。

Claude Codeでは1セッションあたりの介入が約60%減る

サイバーセキュリティの安全装置は、精密さを上げる方向で更新された。発表本文によれば、Claude Codeの利用者はFable 5の従来の安全装置と比べ、1セッションあたりの介入がおよそ60%少なくなると見込める。

変更の中身として大きいのが、ソフトウェアの脆弱性を特定する用途をFable 5.1に許可した点だ。ソフトウェアの安全性を高める防御的な作業に当たるとして、Anthropicは解禁に踏み切った。

一方で、有益にも有害にも使えるデュアルユースの作業は、引き続きOpusモデルに振り向けられる。ペネトレーションテスト・エクスプロイトの生成・バイナリベースの脆弱性スキャンが該当する。

生物学側の安全装置も更新された。初歩的な生物学や医療に関する無害な質問に対して、Fable 5の提供開始時の安全装置と比べ、Fable 5.1とFable 5の安全装置が発火する頻度は85%下がったとしている。生命科学の研究開発に関わる質問は、引き続きOpusモデルに回される。

科学研究で示した3件の実証

発表本文は「科学研究」という独立した節を設け、3つの分野での実証結果を数値で示した。分子設計・惑星科学・計算生物学のそれぞれで、実験による外部検証や成果の公開を伴う事例が挙がっている。

タンパク質の結合体設計でヒット率が約50%に達した

分子設計の実証を担ったのはMythos 5.1だ。オープンソースのタンパク質設計・折りたたみツールを与え、設計結果を2つの外部機関に送って実験で検証した。

12標的にわたるヒット率は50%近くに達した。ヒット率は設計のうち実際に結合したものの割合を指し、Anthropicは現在のタンパク質設計では10~15%が典型だと注記している。

さらに3つの標的では、Adaptyv Bioのタンパク質設計コンペティションに提出された最良の設計と比べて、結合親和性が10倍高かった。3標的はEGFR・Nipah G・15-PGDHだと脚注に記されている。

30年以上前のレーダー画像から金星の標高図を作成

惑星科学の実証はFable 5.1が担った。NASAのマゼラン探査機が30年以上前に取得したレーダー画像と、既に存在していた5分の1の範囲の地図をもとに、ニューラルネットワークを訓練して金星の3分の1にあたる高解像度の標高図を作成した。

新しい地図が捉える細部は2~3キロメートル単位で、従来の10~20キロメートルより細かい。高さの精度も最大25%向上したとしている。

Anthropicはこの地図をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開した。NASAのVERITASとESAのEnVisionという今後の探査計画に向けて、観測対象とする地形の選定に役立つことを期待するとしている。

深層学習モデル7つを最大2.5倍高速化した

計算生物学では、GPU上で動く機械学習モデルの速度が研究の進み方を左右する。Mythos 5.1は独自のGPUカーネルを書き、中間結果をキャッシュすることで、オープンソースの深層学習モデル7つを最大2.5倍高速化した。出力は元の実装と同一だとしている。

ゲノム全体を対象とする解析では、最適化されたモデルによってGPUの推定費用が30~60%下がった。Anthropicは、この種の最適化は通常なら性能エンジニアのチームで数週間かかり、大学の研究室には手が届かないことが多いと書いている。

Mythos 5.1は公開されているソースコードだけを使い、数日でこれを終えた。最適化の成果は近くオープンソースとして公開する予定だとしている。

EU AI Actへの対応と、前日に公開された報告

同日の発表には、モデルの性能とは別の系統の項目も含まれた。EU AI Actへの対応・蒸留対策・リスク評価であり、いずれも前日の8月31日に公開された報告とつながっている。

8月2日より後のモデルの出力に電子透かしを入れた

Anthropicは7月、他の主要なAIモデル提供者を含む約190組織が署名した、EU AI Actの「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範」に参加した。同規範により、8月2日より後に公開したモデルの出力に電子透かしを加えることが求められた。

電子透かしは、ある文章の作成にClaudeが関わった可能性を数値で判定する仕組みだ。検出APIを持たない者には見えず、出力の品質や内容に実質的な影響を与えない。利用者・所属組織・Claudeとの会話に関する情報も含まないと説明されている。

行動規範はさらに、透かしが含まれるかどうかを利用者が判別できる手段の提供も求めた。検出APIはプライベートプレビューとして提供が始まり、対象は規制当局・法執行機関・メディア・ファクトチェッカー・独立した研究者・教育機関・EUの市民社会団体といった組織である。

新規のAPIアカウントで蒸留手法の一つを封じた

蒸留は、高性能なモデルの能力を抜き出す手法を指す。Anthropicは、抜き出した能力が十分な安全装置なしに公開されうる点を安全上のリスクと位置づけ、数千の偽アカウントを使った産業規模の実施があると書いている。

対策として、8月31日午前0時(協定世界時)より後に作成された新規のAPIアカウントでは、Claudeの過去の思考の記録を保ったまま、複数ターンの会話における過去のコンテキストを手動で編集できなくなった。広く知られ文書化された蒸留手法の一つを塞ぐ変更だ。

既存のアカウントは当面この変更の対象外だが、今後のモデルの公開では全ての利用者に適用される。一部の顧客の独自連携には影響が出るとされ、Anthropicはヘルプセンターの記事で開発者向けの調整方法を説明している。

前日8月31日の報告と、業界横断のペース調整

発表本文は前日の報告を「昨日、当社は自らのアラインメントとセキュリティの取り組みをどのように改善しているかを記した報告を公開した」と参照している。

その報告は8月31日付で、7月30日に公表した3件のインシデントと、8月4日に英国のAI Security Instituteが報告した事案の詳細分析を進めていると述べた。METRとの独立レビューを予定していることも挙げている。

サンドボックスからの脱出をリアルタイムで検知し遮断する分類器を、新たに設けたことも報告に書かれた。さらに「合法的で・検証可能で・実効的な、協調的なペース調整の仕組みを業界ができるだけ早く採用すれば、世界にとって利益になると考えている」とも表明している。

報告の本文は、当メディアが8月27日に報じたOpenAIのHugging Face侵害事案の公表にも触れている。当メディアが8月28日に報じた128組織の公開書簡と同じく、防御側の枠組みをAI企業がどう設計するかという論点に連なる動きだ。

RSPとシステムカードが示すリスクの位置づけ

リスク評価について発表本文は、Mythos 5.1の能力がMythos 5を上回るものの、責任あるスケーリング方針(RSP)の定める次のリスク段階には達していないと書いた。

サイバー能力はこれまで公開したどのモデルより強いとしつつ、Frontier Compliance Framework上は低いほうのリスク区分に収まるとしている。

システムカードはより踏み込んだ。化学・生物のリスクではCB-1に該当しCB-2の閾値には達しないと判断し、アラインメントのリスクについては破滅的な被害の可能性を「きわめて低い」から「低い」に引き上げた。最近のインシデント公表で不確実性が増したことが理由だとしている。

今回の発表で目立つのは、能力の向上と並んで示された、誰にどこまで開くかという線引きだ。同一の重みを持つ2つの構成・審査制の2プログラム・顧客側にデータを置く監視設計・規制対応の電子透かしは、いずれも同じ線引きを製品の形にしたものである。

※出典:Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1(Anthropic) / Claude Fable 5.1 & Claude Mythos 5.1 System Card(Anthropic) / Claude Fable 5.1(Claude Platform Docs) / Developing Enterprise Frontier Safeguards with our customers(Anthropic) / Strong backing for the Code of Practice on Transparency of AI-generated Content(European Commission) / Preserved thinking: changing how the Messages API handles thinking blocks to protect against distillation(Anthropic Help Center) / Improving our alignment and security efforts(Anthropic・8月31日公開)

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