AppleがGoogleとNVIDIAと組んでSiriを全面刷新——WWDC 2026発表のAFM 3世代、5モデルの全容

※本記事は2026/06/10時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

6月8日(月)、AppleはWWDC 2026のキーノートで第3世代Apple Foundation Models(AFM)と、Siriの全面刷新版「Siri AI」を発表した。

皮肉めいた文脈がひとつある。ちょうど1年前のWWDC 2025で、Appleのソフトウェア担当上級副社長Craig FederighiとマーケティングチーフGreg Joswiakは「チャットボットをくっつけるだけ(bolted-on chatbot)」という方向性を明確に否定した。そして今年、Siriはまさしく「完全な会話型チャットボット」として生まれ変わった。

その変化をもたらしたのは、2026年1月12日に締結されたGoogleとの多年間パートナーシップだ。年間約10億ドル規模と報じられる(Bloomberg)この提携によって、AppleのAI戦略は根本から書き直された。

5つのモデルの全容——オンデバイスからクラウドまで

Apple ML Researchが公開した技術ブログによれば、AFM 3世代は5つのモデルで構成される。用途・動作環境・規模が異なる5本で、オンデバイスからクラウドまでをカバーする設計だ。

オンデバイスの2モデル

AFM 3 Coreは、前世代から継続する3Bパラメータの密型(dense)オンデバイスモデルだ。日常的なタスクの補完・要約・テキスト生成を、ネットワーク接続なしにiPhone・Mac上で処理する。

AFM 3 Core Advancedが今回の技術的ハイライトだ。スペック上は20Bパラメータのモデルだが、リクエストに応じて1〜4Bのパラメータだけを起動する疎(sparse)アーキテクチャを採用している。Appleが「Instruction-Following Pruning」と呼ぶ独自技術によって実現しており、20Bの能力を持ちながらiPhoneのメモリに収まるという矛盾を解決している。

ネイティブマルチモーダル対応で、より表現豊かな音声や高精度の口述筆記を可能にする。対応ハードウェアはApple Siliconの最新・最上位の端末に限定される。

Private Cloud Computeの3モデル

クラウド側は3本のモデルで構成される。AFM 3 Cloudはサーバー側の汎用モデル。ADM 3 CloudはImage PlaygroundやGenmoji向けの専用画像生成モデル。そして最上位のAFM 3 Cloud Proは、複雑な推論・長文理解・高度なエージェント的タスクを担うフラッグシップモデルだ。

AFM 3 Cloud ProはGoogle Cloud上のNVIDIA Blackwell B200 GPUで稼働する。AppleのAI担当バイスプレジデントAmar Subramanya氏はその品質を「GoogleのフロンティアGeminiモデルに近い(similar)」と表現したが、現時点で独立した第三者ベンチマークによる検証は行われていない。

Google協業の実態——「Geminiである」と「Geminiを使った」の違い

Appleの広報と技術陣が細心の注意を払って維持している区別がある。AFMはGeminiのモデルアーキテクチャを「蒸留して構築した(distilled from Gemini)」ものであり、「GeminiそのものをiPhoneで動かしている」わけではないという点だ。

Apple VP of Softwareはこう述べた。「私たちはGoogleおよびNVIDIAと協力し、Private Cloud ComputeのインフラをGoogle Cloud上のNVIDIA GPUへと拡張しました。それはAppleの比類なきプライバシー保証を維持しながら行われています」

実際のパイプラインとして報じられているのは次の構造だ。AppleのモデルはGeminiのフロンティアモデルの出力で強化訓練(reinforcement learning)を行い、さらにApple独自のデータとアーキテクチャ上の工夫を重ねて仕上げられている。訓練したのはAppleであり、クラウド推論のインフラにGoogleとNVIDIAが使われているという分業だ。

Siri AI——専用アプリで全面刷新

Siriの再設計は「Siri AI」という名称で発表された。独立した専用アプリを持ち、完全に会話的なインターフェースを備え、個人的な文脈(メール・カレンダー・写真)への対応、画面認識(Screen Awareness)、複数アプリにまたがるタスク実行(マルチアプリ実行)をサポートする。

AppleのプレスリリースはSiri AIを「著しく知識豊かで、能力が高く、より知的」と表現した。従来のSiriが音声コマンドへの単発応答に特化していたのに対し、Siri AIは文脈を保持しながら複数ステップのタスクを自律的に進める設計だ。

競合比較として注目されるのが配信規模だ。ChatGPTの週間利用者は9億人超、GeminiアプリはMAU約7.5億人とされる。一方のSiri AIは、iPhone・iPad・Mac・Apple Watchのデフォルトアシスタントとして10億台以上の端末に搭載される。「インストールするかどうか」ではなく「最初から入っている」という違いは、消費者向けAIの競争においてAppleだけが持つ構造的優位だ。

ただし完全な体験はハードウェアに依存する。基本機能はiPhone 16ファミリー・iPhone 15 Pro/Pro Max・M1以降のiPad/Mac・Apple Vision Proで利用可能だが、最上位機能(AFM 3 Core Advancedの全能力)はiPhone 17 ProまたはiPhone Airといった最新シリコン搭載端末が必要となる。

プライバシー設計——「データを出さずにクラウド品質を得る」仕組み

Appleがこの発表で最も力を入れて説明したのがプライバシー設計だ。AFMのアーキテクチャは「プライバシーを中核においた(privacy at its core)」と表現されており、2つの原則で構成される。

ローカル処理の優先:AFM 3 CoreおよびAFM 3 Core Advancedはオンデバイスで完結し、データはiPhone・Macの外に出ない。日常的なタスクはこの段階で処理されるよう設計されている。

Private Cloud Compute:より重いタスクがクラウドに送られる際も、処理はApple Silicon搭載のサーバーまたはGoogle Cloud上のNVIDIA GPU上で行われ、Appleのプライバシー基準を維持するとされている。「Appleはユーザーのリクエスト内容を確認できない」という設計原則を、Google CloudのNVIDIA GPUにまで適用したと説明されている。

サードパーティ開発者向けには、Foundation Modelsフレームワークを通じてオンデバイスモデルへのSwiftからの直接アクセスが提供される。APIキー不要・従量課金なし・ネットワーク接続なし。アプリの中でテキスト生成・要約・構造化データ抽出をオフラインで無料実行できるため、プライバシーとコストの両面で開発者にとってのインセンティブが高い。フレームワークは今回から画像入力にも対応した。

地域制限——EUと中国で当初提供されない

重大な制約として注意が必要なのが地域制限だ。

EU:iPhone・iPadではSiri AIは当初提供されない(DMA規制対応が未完了のため)。Mac・Apple Watch・Vision Proは対象内。

中国(本土):Apple Intelligenceの全機能が未提供。規制当局の承認待ち。

Appleの主要市場のうち欧州と中国という二大市場で機能が制限されることは、グローバルな配信規模という強みを部分的に相殺する要因だ。EUでのDMA対応については「作業中(compliance work)」とされており、提供開始時期は明示されていない。

AAPL株は3.5%下落——市場が示した評価

発表当日の6月8日、AAPL株は3.5%下落して291.12ドルで引けた。直近1年間で約44%上昇し52週高値付近にあった株価が、キーノート後に反落した形だ。

市場が冷静に受け止めた背景としては、いくつかの評価が重なっているとみられる。Google・NVIDIAへの依存が深まることはApple独自技術神話への疑念につながること、最上位機能が新端末に限定されることで既存ユーザーへの訴求が限定的なこと、そして「チャットボットをくっつけるだけ」と否定した方向性に実質的に転換したことへの複雑な反応——これらが重なった結果とみられる。

AppleがOSに埋め込むことの意味

今回のAFM 3世代発表が示す最も重要な変化は、スペックや性能指標より「AIがOSに統合される」という事実そのものにある。

ChatGPTやGeminiがユーザーに「インストールしてもらう」必要があるのに対し、Siri AIはiPhone・Mac・Apple Watchのデフォルト体験として自動的に展開される。プッシュ型の配信力という点で、AppleはOpenAIともGoogleとも異なる競争軸を持つ。

一方で「最初から入っているが、使いたいと思わせる品質を持てるか」という別の問いも残る。Appleが「AIをOSの一部として機能させる」ことに成功すれば、消費者向けAIの競争地図は根本から変わる。iOS 26の秋公開とともにその答えの一端が明らかになる。

※出典:Introducing the Third Generation of Apple’s Foundation Models(Apple Machine Learning Research) / Apple details the AI models behind the new Siri(The Next Web) / Apple rebuilds Siri on Google AI and Nvidia chips at WWDC(The Next Web) / Apple Has 5 New AI Models, Distilled from Google’s Gemini(Trending Topics) / Apple Rebuilds Siri on Google Gemini Models and Nvidia Blackwell GPUs(MLQ.ai) / Apple’s Third-Generation Foundation Models: A Developer’s Read on WWDC 2026(ofox.ai)

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