エージェントがOSに——Microsoft Build 2026全発表まとめ。Project Solara、Scout、MAI 7モデルほか
※本記事は2026/06/03時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。
6月3日、サンフランシスコのFort Mason Centerで開幕したMicrosoft Build 2026。CEO Satya NadellaとMicrosoft AI責任者Mustafa Suleymanが登壇した約2時間半の基調講演は、「アプリを開いて操作する時代の終わり」を宣言する内容だった。
キーワードはAgentic AI(自律型AIエージェント)だ。ユーザーが個別アプリをナビゲートする従来モデルに代わり、AIエージェントが複雑なタスクを自律的に実行する新しいコンピューティングモデルへの移行を、Nadellaは「新しいプラットフォームが来るたびに、ルールを書き直せる」と表現した。
発表の主要6領域は以下のとおりだ。MAIモデル群、エージェントエコシステム(Scout・GitHub Copilotアプリ)、Windowsセキュリティサンドボックス、ハードウェア、Project Solara、開発者ツール・ガバナンス。それぞれを順に整理する。
Project Solara——Androidベースの「エージェント専用OS」
Windowsではなく、AOSPを選んだ理由
Build 2026最大の目玉として位置づけられたのがProject Solaraだ。MicrosoftはこれをWindowsとは別に開発した「chip-to-cloudのエージェントファーストプラットフォーム」と説明した。
最大の驚きはその基盤にある。Solaraが走るのはWindowsではなく、AOSP(Android Open Source Project)ベースの軽量OSだ。従来のWindowsは機能が豊富すぎてこの種のデバイスには「重い」と判断したと見られ、アプリではなくエージェントを主インターフェースとする新しい端末向けにゼロから設計されている。
Microsoftは「エンタープライズ向け、AOSPベースのMicrosoftデバイスエコシステムプラットフォーム」と定義している。
2種のコンセプトデバイス
Solaraを搭載するハードウェアとして2種のコンセプトが披露された。いずれも現時点では販売予定のないプロトタイプだが、Microsoftが想定する「次世代デバイスカテゴリ」の方向性を示すものだ。
デスク型デバイス(スマートディスプレイ型):Amazon Echo Showに似た常時稼働型のスマートディスプレイ。タスク管理・通知・会議サポートなどを卓上で担う。チップはQualcomm製とMediaTek製が使われている。
ウェアラブルバッジ:クリップやランヤードで身に着けるIDバッジサイズの端末。カメラ・マイク・5G通信を搭載し、指紋認証でロック解除する。移動中でもエージェントへのハンズフリーアクセスが可能で、音声指示の内容を整理してチームに送信する機能をデモで披露した。Qualcomm CEO Cristiano AmonがNadellaとともに登壇し、連携を強調した。
想定用途は小売・医療・オフィスといった現場環境で、Microsoft IntuneによるIT管理とプライバシー制御にも対応する設計とされている。具体的な発売時期は現時点で未発表であり、2026〜2027年はMicrosoft社内でのドッグフーディングと医療・小売・金融サービスの垂直パイロットが先行する見通しだ。
Scout——「Autopilots」第一弾、Microsoft 365に常駐するエージェント
Copilotから「Autopilots」へ
Microsoft AI責任者Mustafa Suleymanは、これまで「Copilot」ブランドで展開してきたAIアシスタントを、次の段階として「Autopilots(自律エージェント)」と呼び替えることを宣言した。Copilotが「対話する相手」だとすれば、Autopilotは「タスクを委任できる相手」だという位置づけの変化だ。
その第一弾として発表されたのがScoutだ。Microsoft 365向けの常時稼働型個人AIエージェントとして、Outlook・Teamsを継続的に監視し、ミーティング準備・タスク管理・優先事項の通知などを自律的に実行する。
OpenClawフレームワークとGitHub Copilotサブスクリプション
ScoutはOpenClaw(MicrosoftがオープンソースとしてリリースしたAIエージェント基盤)の上に構築されている。クラウドを主たる稼働環境とするが、デスクトップ環境やWebブラウザでも動作し、カレンダー・メール・各種生産性ツールと接続する設計だ。
利用はMicrosoftのFrontierプログラムを通じて提供され、GitHub Copilotサブスクリプションが必要となる。Scoutはユーザーがカスタム名を付け、継続的なフィードバックを通じて動作スタイルを適応させていくパーソナライズ機能も持つ。
MAIモデル群——自社開発7本でOpenAI依存を本格解消へ
MAI-Thinking-1とMAI-Code-1-Flash
Mustafa Suleymanが率いるMicrosoft AIチームは、今回のBuildで7本の新MAI(Microsoft AI)モデルを一挙に発表した。画像生成・音声・文字起こし・コーディング・高度推論など、用途別に特化したマルチモーダル構成だ。
注目株は2本だ。MAI-Thinking-1は推論に特化したフラッグシップモデル。MAI-Code-1-Flash(MAI-Code-1)はGitHubおよびVS Codeに特化したコーディングモデルで、GitHub Copilotの体験強化の中核を担う。これは先週のGTC Taipei 2026でも示唆されていた「Project Polaris」に相当するモデルとみられる。
Microsoftは2026年4月にOpenAIとの契約を再交渉し、最先端モデルのトレーニング制約が緩和された経緯がある。今回の7モデル発表は、その結果として本格化した自社開発路線の成果だ。
Frontier Tuning
企業向けにはFrontier Tuningも発表された。ドメイン固有のデータでMAIモデルをファインチューニングできる機能で、汎用モデルを業種・業務特化型の高効率モデルに仕立てることを可能にするものだ。
なお、Azure AI FoundryはAnthropic Claude、OpenAI GPT-5.5など外部モデルとの統合も維持しており、モデル選択をタスクに応じて自動最適化する仕組みも発表された。
GitHub Copilotのデスクトップアプリ化
GitHub Copilotアプリが独立したデスクトップアプリケーションとして登場した。ブラウザ依存を脱し、エージェントネイティブな体験を提供する。
ローカルで動作する軽量AIモデルAion 1.0(InstructとPlanの2バリアント)もWindowsに統合され、クラウドへの接続なしでエージェント機能の一部を実行できるようになる。
ハードウェア:Surface RTX Spark Dev Box
開発者向けのハードウェアとしてSurface RTX Spark Dev Boxが発表された。NVIDIAとの協力のもとに設計されたミニPC型のAI開発専用マシンで、1ペタフロップのAI演算性能と最大128GBの統合メモリを持つ。120BパラメータのLLMをローカルで実行できる。
GTC Taipei 2026でJensen Huangが発表したRTX Sparkプラットフォームを搭載しており、クラウドへの依存を抑えたローカルAI推論を開発フローに取り込むことを想定している。
開発者向けツールとガバナンス
Project Rayfin
Project Rayfin(プレビュー)は、プロトタイプから本番環境への移行ギャップを埋めるための開発者向けサービスだ。
Microsoft Fabric上のマネージドバックエンド・アズ・ア・サービスとして提供され、GitHub定義のワークフローと連携する。エージェントアプリを迅速に本番デプロイする際のインフラ整備負荷を大幅に軽減することを狙っている。
Web IQ
Web IQは、エージェントがインターネットにアクセスするための新しいレイヤーだ。既存のWebブラウザ操作より速く・効率的にエージェントがWebを利用できるよう設計されており、エージェントのタスク実行能力を広げる基盤として位置づけられている。
セキュリティ:MXCとAgent 365 SDK
企業利用の文脈では、MXC(Windows Agent Containment)というセキュリティサンドボックスも発表された。エージェントを隔離された環境で動作させ、意図しない操作やデータ漏洩を防ぐ機能だ。
Agent 365 SDKとMicrosoft Entra Agent IDはエージェントのガバナンス管理を担い、誰がどのエージェントに何を許可するかをIT部門が統制できる仕組みを提供する。
Majorana 2——量子プロセッサの信頼性が大幅向上
量子コンピューティングの分野では、次世代量子プロセッサMajorana 2が発表された。前世代と比較してエラー率が大幅に低下し、信頼性が向上したとされる。
Microsoftは量子技術をAzureのAIワークロード基盤と組み合わせる長期ロードマップを継続しており、今回の発表はその進捗を示すものだ。
Build 2026が示したMicrosoftの「エージェントOS戦略」
Build 2026の全体像を俯瞰すると、Microsoftはコンピューティング基盤そのものを再設計しようとしていることが明確に読み取れる。
Microsoft IQでエージェントにコンテキストを与え、Microsoft Foundryで構築・実行し、Agent 365でガバナンスを管理し、Copilot Creditsで利用量を計測し、Windows Agent Runtime・Scout・Project SolaraでUIと端末に展開し、Frontier Tuningで継続改善する——この6ステップのライフサイクルがBuild 2026の骨格だ。
Project SolaraのAOSP採用は「Windowsに縛られないエージェント端末」への現実的な対応として評価される一方、「Microsoftが自社OSの限界を認めた」という見方も出ている。AIエージェントが主役のコンピューティング時代において、OSやデバイスの形が根本から変わる可能性を、MicrosoftはBuildの舞台で正面から提示した。
※出典:Biggest Microsoft Build 2026 announcements(Tom’s Guide) / Microsoft Build 2026: Live updates(Engadget) / Microsoft teases new era of AI-driven devices at annual developer conference(Rappler / Reuters) / Microsoft Build 2026: Everything Microsoft Announced(The Neuron) / Microsoft reboots computing: New Solara OS powers agentic devices(Interesting Engineering)