HumanXで最も語られたAIはClaude?——企業向けAIの「勢力図」が静かに塗り替えられている

※本記事は2026/04/13時点での情報を基にしており、閲覧時点では内容や状況が変わっている可能性があります。

2026年4月6日から9日、サンフランシスコのMoscone CenterでAIカンファレンス「HumanX 2026」が開催された。

参加費4,000ドルを払って集まった約6,500人の経営者・スタートアップ創業者・投資家が4日間にわたってAIの企業活用を議論したこの場で、TechCrunchの記者が会場を歩き回って聞いた問いへの答えは一貫していた——最もよく名前が上がったAIはClaudeだった。

「最も人気のないチャットボットは?」という問いへの答えも明快だった。ChatGPTは相対的に話題に上らなかった。あるベンダーは記者に「自分たちのチームはClaudeをかなり使っている一方で、ChatGPTやOpenAIは以前より勢いが落ちた」と率直に語ったという。

同時期にCNBCもHumanX会場での19人のエグゼクティブ・投資家へのヒアリングをもとに、「OpenAIがもはや会話の中心ではない。少なくとも今は、その区別はAnthropicのものだ」と報じており、TechCrunchの観察と方向性が一致している。

ただし、最初に断っておくべき重要な留保がある。これはシェア調査でも利用統計でもなく、カンファレンス会場での観察とヒアリングに基づく「温度感の記事」だ。

それでも、HumanXのような場——投資判断・導入決定に近い立場の参加者が集まる企業向けAIの最前線——でこれだけ明確な空気の変化が報告されていることは、単なる印象論として読み捨てるべきではないだろう。

Claudeが話題の中心になった理由とは

Claude Codeとエージェント活用が牽引

HumanXの議論の中核にあったのは「エージェント型AIがビジネスをどう変えるか」だった。業務の自動化とコーディング支援がセッションの主要テーマとして繰り返し取り上げられる中で、Anthropicのコーディングエージェント「Claude Code」の存在感は際立っていた。

CNBCの報道によれば「Claude Codeは全員の口に上っていた」という状況で、参加者の多くがOpenAIやCursorなども強力な選択肢として認めつつ、現時点の企業利用における本命としてClaudeを挙げていた。

Claude Codeの評価は数字にも表れている。2025年5月に一般公開され、2026年2月時点で年換算25億ドル超の収益を生み出しており、急速に企業の開発フローに組み込まれている。ペイドユーザー数も記録的な伸びを示しており、TechCrunchが別途行った消費者クレジットカード取引分析によれば、Claude全体の有料加入者数は過去最高ペースで増加しているという。

さらにカンファレンス期間中の4月8日、AnthropicはClaude Managed Agentsの公開ベータを発表した。エージェントの本番環境への展開を大幅に容易にするこのサービスは、「エージェント型AIの業務実装」というHumanXの中心テーマとまさに重なるタイミングでの発表となった。

楽天が1週間以内に複数部門のエージェントを展開した事例など、すでに具体的な成果が示されており、「実験から量産へ」という流れを象徴する存在として会場での注目を集めた。

Mythosという「安全性の実証」

カンファレンスの最中、AnthropicはもうひとつのAIモデル「Claude Mythos Preview」を発表した。あまりに強力なサイバー攻撃能力を備えていることを理由に一般公開を控え、Amazon・Apple・Google・Microsoftなど40社以上の厳選パートナーに限定した「Project Glasswing」として展開するというこの発表は、会場でも大きな反響を呼んだ。

Theory VenturesのTomasz Tunguzは「Mythosモデルは大変なことだ」と述べており、テクノロジー業界の一部では、「AnthropicがAI開発の最前線に立っていることの証明」と受け取られた。

Mythosをめぐる動向が、HumanXでのClaude人気と無関係ではないことは注目に値する。企業がAIプロバイダーを選定する際に「安全性への真摯な姿勢」を重視する傾向は特にエンタープライズ市場で強く、AnthropicがMythosを「強すぎるから公開しない」という判断を下したことは、安全性重視というブランドを実際の行動で示したものとして評価されやすい。

さらに、本メディアでも先日のニュースで取り上げたように、米財務省と連邦準備制度理事会がAnthropicのMythosリスクをめぐって大手銀行CEOを緊急招集したという事実も、AnthropicのAI開発が国家レベルの重要性を持つという文脈を与えた。

OpenAIに何が起きているのか

焦点のぼやけと相次ぐ逆風

ClaudeへのポジティブなバイブスはOpenAIへの懸念とセットで語られることが多かった。TechCrunchの記事はOpenAIが抱える問題として複数の要因を挙げている。

まず「会社の焦点のぼやけ」だ。OpenAIは直前に動画生成ツールSoraや「セクシーバージョンのChatGPT」計画など複数のサイドプロジェクトを打ち切り、ビジネス・コーディングへの集中を宣言した。この方針転換自体は戦略の明確化ともいえるが、「あれだけ手を広げておいて方向転換」という印象を残した。

次に「信頼性への疑念」だ。2026年4月7日、The New Yorkerがロナン・ファローとアンドリュー・マランツによる大型調査報道を公開し、100人超へのインタビューと未公開の内部文書をもとにSam Altman CEOの「一貫した虚偽の歴史」を詳述した。

OpenAIのGilya Sutskeverが取締役会に提出したとされる約70ページの内部告発文書の存在も報じられており、企業としての信頼性に対する疑念が業界全体に広がった。

HumanXの会場では、OpenAI取締役会議長でもあるSierraのBret Taylor氏がAltman氏を擁護する場面もあったとTechCrunchは報じており、OpenAIをめぐる議論が会場でも無視できないトピックになっていたことがうかがえる。

さらにChatGPTへの広告導入とTrump政権との距離感も、企業ユーザーの間で警戒感を生んでいる。「無広告」を公約に掲げたAnthropicのスーパーボウル広告がOpenAIへの皮肉として機能し、一定のブランド効果を上げたことも背景にある。

OpenAIが終わったわけではない

ただし、この空気をもって「OpenAI終焉」と読むのは早計だ。OpenAIは依然として巨大なユーザーベースと収益規模を誇り、企業向け事業も年換算20億ドルを超える水準で成長している。

HumanXの会場ではOpenAIのB2BアプリケーションCTOがChatGPTの月額100ドルのコーディング強化プランを発表するなど、Claude Codeへの対抗姿勢を明確にしており、競争は続いている。

「今の企業向けAIの最前線では、OpenAI一強の空気が崩れ、Claudeが現場で使われる本命として存在感を増している」——HumanXが示したのはこの変化の兆しであり、確定した勝敗ではない。

「AIの民主化」から「業務のインフラ」へ——企業導入の評価軸が変わった

HumanXで示された最も重要な示唆の一つは、企業がAIを評価する軸が変化しているという点だ。「どのモデルが最も賢いか」という能力競争から、「どのAIが自社の業務フローに最もスムーズに組み込めるか」「どのプロバイダーが安全・信頼・継続性の面で信頼に足るか」という運用評価へと、選定基準が移行しつつある。

Tech by Johanの参加者レポートには、HumanXのセッション全体を通じた最大のメッセージとして「モデルは十分に良くなっている。問題はあなたの組織にある」という言葉が紹介されている。この言葉は、AI競争の焦点が技術の優劣から「どう組織に浸透させるか」に移っていることを端的に示している。

その文脈でClaudeが評価されているのは、ツールとしての「組み込みやすさ」と「予測可能な安全性」だとみるのが自然だ。

コーディング支援から複雑なエージェントパイプラインまで一貫して使えるエコシステム、明確な安全ポリシー、エンタープライズ向けの対応体制——これらが企業の実務担当者から支持を集める要因として機能している。

「空気」の変化をどう読むか

HumanXで観察された空気の変化は、日本市場においても無縁ではない。国内でも、大手企業を中心にAIツールの選定・見直しが本格化しており、「ChatGPTだけを使い続けることが最適解か」という問いを持ち始めている企業は増えている。

特に注目すべきは、HumanXに集まった層が「一般ユーザー」ではなく「企業のAI導入・投資を実際に決断する立場の人々」だという点だ。この層がClaudeを選ぶ方向に傾いているという観察は、今後の法人向けAI市場の動向を先行して示している可能性がある。

先日のニュースでも報じたように、Anthropicは豪州政府とのMOUを締結し、Mythosで安全性の実績を積み上げ、Claude Managed Agentsでインフラ提供者としての地位を確立しようとしている。

この一連の動きは、「安全で信頼できるエンタープライズAIプロバイダー」というポジション獲得を狙った戦略として整合している。HumanXはその戦略が企業の現場で共鳴し始めていることを示す、一つの有力なシグナルだ。

どこがエンタープライズの信頼を掴むのか

HumanXが示したのは数字でも市場シェアでもない。「企業の実務担当者がAIについて語るとき、どのプロバイダーの名前を自然に挙げるか」という現場感だ。その答えが2026年春の時点でClaudeに傾いていることは、数字が追いかけてくるまでの先行指標として、記憶に留めておく価値がある。

AI競争は現在、「誰が最強モデルを持つか」だけでなく「誰がエンタープライズの信頼を掴むか」という次の戦場に突入している。HumanXはその戦場でAnthropicが優位に立ちつつあることを、会場の空気として可視化した場だったといえるだろう。

※出典:TechCrunch — At the HumanX conference, everyone was talking about Claude CNBC — Vibe check from inside one of AI industry’s main events: ‘Claude mania’ TechCrunch — Anthropic’s Claude popularity with paying consumers is skyrocketing SiliconAngle — Is a backlash brewing? Rapid innovation in AI coding and agents may force push for enterprise order and control

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